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渦巻く滄海 紅き空 【下】
六十 雨夜の月
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日が沈む。
橙色と紫のグラデーションが織り成す空の下、平和で穏やかな里が静かに夕陽色へ染まってゆく。

夕陽は平等に里を照らす。
平穏な街並みも穏やかな人々も、そして平和を手に入れる為に犠牲となった幾つもの石にも。

規則正しく並ぶその内のひとつに伸びる人影。
最初は一つだったものが、やがて二つに増えた。

「出歩いていいんですか?」

墓石の前で静かに佇んでいた夕日紅は、背後からの気遣う声に振り返った。

「シカマル…」

アスマを殺した憎き『暁』。不死身コンビたる角都と飛段。
飛段こそ取り逃がしたものの角都を倒したと火影に報告したその足で墓参りに来たシカマルの名を呼ぶ。

己の愛する男の生徒である彼が、アスマの形見であるライターを墓石に置く。
その後ろ姿を見ながら「…将棋の相手がいなくなったわね」と紅は寂しげに零した。

「貴方はアスマの一番のお気に入りだったから」


彼女こそがもっと寂しいのに「…寂しくなるでしょ」と気遣う紅に、シカマルは墓石に眼を落としたまま、口を開く。

「大切な事からくだらない事までいろんな事を教えてくれましたよ…将棋もその一つだった」

最後のほうはほとんど独り言に近かった。
独白染みた返事をしながら、シカマルは顔を伏せる。

「寂しくないって言ったら嘘になりますけど」


夕闇に沈む里。
木ノ葉隠れの里を照らす残照が、子どもから青年へ、そうして大人へ成長してゆく彼の影を大きく伸ばす。

「俺ももう…いつまでもガキのままじゃいさせてもらえない世代ですから」

顔をあげる。沈んでいた顔が夕陽を浴びて、明るい表情を生み出す。
口許に笑みを湛え、シカマルは宣言した。



「だから───俺もアスマみたいなカッコイイ大人にならねぇと」


「───そいつは嬉しいねぇ」




不意に、影が落ちた。
自分の墓石に置かれたライターを拾い上げ、カチリ、と音を立てる。

呆然と固まるシカマルと紅の前で、死者は煙草に火をつけようとして。
紅のお腹を見て、その手を止めた。


「おっと。シカマルに負けてらんねぇからな…俺もその子に胸を張れるようなカッコいい父親にならねぇと」


シカマルの口調を真似て、ニッ、と浮かべた笑顔。
妊婦である紅を気遣い、禁煙を始めた男が笑う。

夢か幻でも視ているのではないか。
幻術の使い手である紅でも疑う光景だった。

自分の名前が彫られた真新しい墓石。
猿飛アスマと彫られた墓石の後ろで、シカマルと紅の視線に耐え切れず、死んだはずの男は頬を指で掻いた。


「あ─…すまん。なんか知らんが、生きてる、ぞ?」


気まずげに視線を彷徨わせた死者は凍り付いた空気を溶かそうと、
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