第二章
[8]前話
彼はどんな重いものも平気で持ってかつ幾ら動いても平気だった、現場の人達はそんな彼を見て笑顔で話した。
「頼りになるな」
「ああ、あの兄ちゃんはな」
「頼りなさそうな顔をしてるけどな」
「力持ちで体力あってな」
「要領は悪い感じにしても」
それでもというのだ。
「あれだけの力と体力ならな」
「いいよな」
「ずっとここにいて欲しい位だよ」
彼についてはこう言うのだった。
緋沙子はすぐに現場から外され弁当の手配等を任された、そちらは問題なかったが。
次の日だ、緋沙子は仕事の開始時間前に護堂に話した。
「昨日は何も出来なかったわね」
「肉体労働はですか」
「私ああいうの全く駄目なのよ」
護堂にバツの悪い顔で話した。
「身体を動かすことはね」
「じゃあ得意なのは」
「勉強とかね。今のお仕事とかはね」
「得意ですか」
「けれど小学校の時から身体を動かすのは全く駄目で」
それでというのだ。
「肉体労働もよ」
「駄目ですか」
「ええ、腕力も体力も運動神経もね」
そういったものはというのだ。
「駄目なの。部活は文芸部だったし」
「文科系ですか」
「完全にね」
「そうだったんですね」
「だから身体を使うお仕事も」
「そうでしたか」
「けれど松岡君は違うのね」
彼を見て言って来た。
「そうなのね」
「ずっとアメフトしてまして」
「だから体力あるのね」
「そうですね」
「腕力も」
「そうなのね。私いつも偉そうに言ってこうだから」
緋沙子は項垂れてこうも言った。
「駄目ね。人にそんなこと言えないわ」
「いや、それは」
「事実だから。これまできつくあたって御免なさいね」
こう言ってだった。
緋沙子はその日から護堂に厳しく言うことはなくなり他の部下達にもそうした。そして何時しか優しくそのうえで仕事が出来る上司と言われる様になった。
そして護堂は作業現場に引き抜かれそこで要領は悪いが体力と腕力がありかつ真面目なスタッフとして重用されることになった。二人が会社で顔を合わせることはなくなったがそれぞれ結婚して幸せな家庭も築けた。緋沙子も護堂も会社でも家庭でも評判はよかった。
厳しい上司の弱点 完
2022・5・24
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