第二十四章 みんなの未来を守れるならば
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降参の意、ということであろう。
言葉の通りに。
妙に清々しい顔で、床に大の字になっている至垂徳柳は、右手に握っていた長剣を離すと、甲でぱしり弾いた。
くるくる回りながら長剣は床を滑り、たまたまその位置にいた文前久子が踏み付けて止めた。
久子は、そのまま拾い上げて、床へと突き立てた。
ようやく終わった戦闘に、赤毛の魔法使いアサキは小さなため息を吐きつつ、右手に握った剣をゆっくり下げた。
かちり、
切っ先が床に触れて、硬い音がした。
リヒト所長は、肘をついて支えて上体を起こした。
白銀の魔道着姿のままあぐらをかいて座ると、人差し指で顎を掻きながら、アサキの顔を見上げる。
「そういうところだ。きみは、簡単に人を許してしまうんだよ。……実に胸糞が悪い」
「許してなんかいません」
冷たい、アサキの目、口、口調である。
自然に出ているものであるのか、演技の混じったものであるかは、自分でも分からなかったが。
「とはいえ、さして恨んでもいなかろうに。罪を憎んでなんとやら。優等生なんだよ、きみは。……実に胸糞が悪い」
「そんなことはない」
本心からの、アサキの言葉だ。
わたしは別に、優等生なんかじゃない。
ただ人間でありたいと思うのみだ。
自分が人間だと信じていた時から、そうではないと知った現在も。
「そんな作品に作り上げたつもりもないのだが、先天後天、とにかく結果として」
「わたしは……」
人間でありたいだけ。
という思いを声に出そうとしたが、すぐ口をつぐんでしまう。至垂の、「作品」という言葉が胸にぐさり突き刺さって。
しばらくは、こうして気持ち揺れるのだろう。
落ち込んだりも、するのだろう。
自分がキマイラであるということ、魔道器という存在であること、吹っ切れたつもりではいたけれど。でも、それを知ったというか、思い出したのが、ついさっきのことなのだから。安定するまで時間が掛かるに決まっている。
そんなアサキの思いを知るか知らぬか、至垂はあぐらをかきながら、楽しげに言葉を続ける。
「でもね、その偶然産物の、わたしにすれば腐ってるとしか思えないきみの性根が、ここまでのところ実によい効果を生んでいるんだ。……興味が沸くよねえ。類まれなる魔道の器、優等生的な汚らわしい性根、そんな存在が心の底から怒り、狂い、真の絶望をした時に、果たして我々は目の前になにを見るのか。この世の理を、細い針金の如くにたやすく捻じ曲げる、どんな素敵なことが起こるのかを」
あぐらをかいたまま、くくっと感情を押し殺そうという笑い声を漏らした。
まった
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