第二十四章 みんなの未来を守れるならば
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あ立ち直りの早いことだね」
鼻で笑い、またねちねち小さな拍手をする。
「そんなことよりも、フミちゃんが、どうかしたんですか?」
「いや、もしもわたしがね、そのフミちゃんを、交渉の重要な人質にとか、切り札にとか、考えてると思っていたのなら、無警戒にも等しく奪い返されたわたしが、さすがに間抜け過ぎるよなあ、ってね」
ははっはっという笑い声の不快さに、アサキは眉をわずかにしかめた。
真意は図りかねるが、口に出している言葉そのものの、意味合いは分かった。
癖なのか、わざとなのか、無意味に難解ないい方ではあるが。
明木治奈の妹である史奈の誘拐は、さして重要ではない。
単なる、始まりのきっかけとして、容易だから選ばれたに過ぎない。
ということだ。
至垂配下の科学者が、史奈を安楽死させようとしていた。という、天野姉妹の報告であるが、おそらく惑わすための芝居などではなく本当のことなのだろう。
盤に並べた駒は動き始めたわけであり、ならば、きっかけとして利用した道具を監視を置いてまで生かしておいても意味がない。
むしろ、殺してしまうことで、(至垂にとって)好都合な化学反応が起こるかも知れない。
つまりは、ヴァイスタ化に繋がる、「絶対世界」へ繋がる、「神」へと繋がる、なにかが。
例えそれが、手掛かり的なものに過ぎないとしても。
「でもまあ、きみのさ、家族が云々、情が云々とかいう都合のいい考えは、確かに『人間』と呼べるものなのかも知れないね」
「なにを、いいたいんですか?」
アサキの頬が、ぴくりと痙攣した。
少し険しい顔になっていた。
戯言を、無駄に分かり難くいっているだけだ。
きっと、なにか仕掛けるための、時間稼ぎをしているだけだ。
と、そう思い、冷静になろうとするものの、いま吐かれたその言葉から、これまでになかった最大限の侮蔑を感じ、それがたまらなく不快だったのである。
「人間同様の低俗な情緒が胸の中に存在しているのならば、つまりは上っ面の言葉の正義に酔うことも、赤の他人に同情共感したふりを平気でしていられるのも、然り然り、ということなのかな」
「いってることの意味が分からない!」
怒鳴っていた。
足を、どんと激しく踏み鳴らしていた。
確かに言葉の意味はまるで分からないが、それ以上、ねっとり舐める視線、その裏に隠れているであろう蛇の舌さながらにチロチロ見えている感情。それが不快で、不快で、不快で、不快で、不快で、我慢が出来ずに。
「分からない?」
歪み、釣り上がった、口元。
狡猾そうな、大人の、幼稚な、悪意の、無邪気な、至垂徳柳の口元。
その不快な声を聞き、言葉を聞き、口元を見ているうちに、不意に、
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