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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第61話 エル=ファシル星域会戦 その5
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 宇宙歴七八九年 四月二六日 エル=ファシル星域エル=ファシル星系


 これはもう連絡士官の仕事というより、陸戦参謀の仕事ではないだろうか。のんびりと珈琲を飲みながら陸戦参謀達の後ろ姿を眺めていた一〇時間前が、えらく遠く懐かしく感じられる。

 ディディエ少将が協力要請という名で出してきた作戦は、単純に言えば帝国軍の救出作戦を偽装して、都市部に引っ込んでいる帝国軍陸戦部隊を、野戦可能な原野に釣り出し纏めて始末するというモノだ。既に帝国軍の宇宙艦隊が壊滅していることは、地上にいる帝国軍も理解している。衛星軌道上管制センターも奪われ、中継衛星も破壊されたことで、超光速通信も地上施設からの直接送信している状態だ。送信情報量は著しく少なく、受信はまともにできる状態ではない。

 いわばエル=ファシルの地上にいる帝国軍は目と耳を失ったほぼ孤立状態。情報戦を仕掛けるには十分な条件が揃っているが、逆に言えば中途半端な作戦では容易に見抜かれる。見抜かれたら以降の行動は力押しが主体となり、犠牲も損害も大きくなる。

 そして帝国軍をだます為には宇宙艦隊の協力が必要となる。通信では傍受の恐れがあるので、俺はジャワフ少佐を連れて直接旗艦エル・トレメンドに戻り、少佐も交えて司令部に地上軍の意向を説明する。

「すっかり地上軍の水になれたようじゃな、ジュニア。ん?」

 傍にジャワフ少佐がいるというのに、皮肉たっぷりに爺様は俺に水を向けてくる。このエル=ファシル攻略部隊においては今のところセクション対立は起こっていないが、地上戦においてほぼ優位を確保しつつあることを宇宙艦隊側は十分認識しているし、それを承知の上で協力要請してくる地上軍司令部には爺様も皮肉の一つも言いたくなるのだろう。

 まぁジャワフ少佐ではなく俺に向けて言っているということは、『協力することはやぶさかではないが、それなりの結果は求めるし、宇宙軍が犠牲を払うような作戦なら宇宙軍が指揮をとるぞ』と言外に地上軍側へ伝えるよう俺とジャワフ少佐に言い含めているわけだ。爺様は単なる短気直情な皮肉屋軍人ではない。

「詳細については貴官らに詰めてもらうが、具体的にはどれだけの規模の兵力を必要とするのかね?」
 宇宙艦隊の姿勢をジャワフ少佐に伝達したと認識したモンシャルマン参謀長は、軽く空咳を入れた後で俺に問いかけた。
「残念ながら戦場整理はまだ終わっていない。会戦が終わってまだ三六時間だ。動かせる戦力はさほど多くないと思ってほしい」
「小官としたしましては宇宙艦隊の全兵力を動員したいのですが」
「……どうしてもかね?」
「どうしてもです」
「……司令官閣下、いかがでしょうか?」

 真正面からぶつかった俺とモンシャルマン参謀長の視線は、先に参謀長の方から外され、爺様に向けられる
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