新条アカネ
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ロの姿の彼は、アカネとの距離を保ったまま後ろに付いてきていた。
「うるさい」
しかめっ面のアカネは、ずんずんと先へ進んでいく。
「さあ、マスターの公園外出デビューの瞬間だ。記念するべきかなあ?」
「うるさい」
霧崎を無視しながら、アカネは歩き出した。
「あ……そうだ、トレギア。ムーンキャンサーは?」
「ほら、ここにいるよ」
霧崎はどこからともなく、リードを取り出した。彼がその先に歩かせているのは、雨合羽を着たムーンキャンサー。果たしてそれが犬なのか猫なのかも分かりにくいほどに覆ったその姿に、アカネも目を丸くした。
「それ、ムーンキャンサー……?」
「ああ。こうすれば騒がれないだろう?」
「そうだけど……」
アカネはポケットから人形を取り出す。先日作った怪獣の人形をトレギアに突き出した。
「だったら、この怪獣で騒ぐ奴ら全員焼き払っちゃえばよくない?」
「おいおい、随分と凶悪な思考じゃないか」
霧崎は顎をかいた。
「折角だ。この町本来の環境を散歩させることも重要じゃないかい?」
「そう?」
「ああ。まさか、ムーンキャンサーを動かす度に怪獣を動員するつもりじゃないだろう?」
「え」
アカネはキョトンとした声を上げた。
「……そのつもりだったのか」
霧崎は呆れながら、顎で促した。
「ほら、ちゃんとリードはあるんだ。しっかりやってくれ」
「分かったよ」
アカネは口をすぼめながら、彼の手からリードを受け取った。
だが、霧崎からリードを受け取った瞬間、ムーンキャンサーの動きが活発になる。
「あ! ま、待って!」
何かに駆られたのか、ムーンキャンサーはどんどんアカネから遠ざかっていく。道行く人々の間を縫って、黄色の雨合羽がどんどん離れていく。
アカネは追いかけるものの、好奇心が芽生えたペットほど追いかけるのが面倒なものはない。
その道中、人とすれ違うたびに体が震える。吐き気がする。速く帰りたいと心が叫ぶ。
どれだけ走っただろうか。
やがて、アカネの体力が底を尽き、フラフラと壁に寄りかかった。
「……やっぱりやめた! こんなつらい思いして、外に出ても意味ないじゃん」
アカネはそう言って、尻餅を着く。人の目が集まるが、アカネはそれよりも駄々をこねることを選択した。
「トレギア! あなたがムーンキャンサーを連れてきてよ!」
「おいおい、短気じゃないかマスター」
「うるさい! そもそも、楽に怪獣を沢山暴れさせてくれるっていうからアンタと手を組んだのに、何で私まで……」
「そんなこと言っていると……ほら、行っちゃうよ? ムーンキャンサーが」
霧崎が指す、ムーンキャンサー。
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