第二部 1978年
ソ連の長い手
牙城 その3
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入籍の話は、既に士官学校生徒たちの耳にまで広まっていたのだ
5歳も年下の女にその様に言われた事より、周囲に広まっていた事が恥ずかしかった
忽ち彼の顔が青くなる
ヤウクは、赤ワインを一口含む
灰皿を引き寄せ、一言告げる
「本当に良い奥様だよ、君は彼女の愛を満たせる自信はあるかい」
「貴様らしくない哲学的な問いだな」
そう言っている内に暖かい料理が運ばれてくる
「まあ、こういう所で聞く話ではないのは知っている。冷めぬ内に頂こうではないか」
そう言うとナイフを手に取った
「なあヤウクさんよ、同志将軍の御姫さまとはどうだい」
ヤウクはワインを一口含み、同輩の問いに応じた
「先週、初めて会って来た……、天真爛漫な人だったよ」
ベアトリクスは、その発言に失笑を漏らす
彼は感づいていたが、無視する
「何れは、教会婚でも挙げるのもいいかなと」
「ちょっと危ないな、其れ……」
東ドイツではソ連とは違い、一応教会や布教活動は認められてはいた
だが、それは制限付きの物であった
西ドイツと同じようにキリスト教ルター派の信仰を告白することは、社会から疎外されることを意味した
一応、信仰を理由とした兵役拒否やその他の権利は有していたが、それは同時に党から監視される立場になった
「士官学校次席としては、随分脇が甘いのね」
彼女は、ヤウクを窘めた
「貴女の夫君には負けますよ」
彼は、同輩の幼妻にその様に回答する
「ユルゲン、本当に賢しい女性だ。一緒に死ぬ覚悟で愛してやるべきだ」
『ジダン』の紙箱を出すと、中敷きを開ける
中より紙巻きたばこを抜き出し、火を点けた
「何を……」
紫煙を燻らせながら、答える
「支那の諺に『覆水盆に返らず』という言葉がある。夫婦とは言えども一度関係が壊れれば戻らない」
その言葉を聞いて焦りを感じたユルゲンは、ワインで喉を湿らせる
「なあ……」
彼は、微妙な表情をする夫君の方を改めて振り返った
「我々の首席参謀の家庭環境と言う物を本心から心配したのだよ。
僕達四人で話し合って解決できる問題じゃあるまい……。
こういう事言うとヴィークマンに、また叱られそうだけどさ」
ちらりと、静かにしているカッフェの方を見る
「最も、彼女の愛はバルト海よりも深い……。
だから、その心配は無いだろうけどね」
そう言うと笑みを浮かべる
「なあ、家で飲み直さないか」
家で軍隊に関することを話そうと、ヤウクへ暗に提案する
公衆の面前で軍や政治討論をするほど浅はかではないが、一応誘ってみたのだ
「新婚さんのお宅に邪魔するほど、僕も無粋ではないよ」
黙っていたカッフェも同調する
真っ赤な顔をしながら、呂律の回らない口調で言う
「も
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