第二部 1978年
ソ連の長い手
牙城 その3
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ベルリン 4月30日
ユルゲンたちは、ベルリン市内のレストランに居た
結婚休暇より戻ってきた二人を歓迎すると言う名目でソ連留学組の面々と市街に繰り出したのだ
ベアトリクスの提案で、『ルッター&ヴェグナー』という店に決まった
シャルロッテン通り沿いにある1811年開業の老舗で、特権階級御用達
この店は、元を辿れば、150年弱の歴史を有するワイン商
19世紀半ばには、すでにワイン・バー、軽食堂を経営していた
ここの常連であった宮廷役者ルートヴィヒ・デヴリエン
彼がジャンダルメンマルクトの劇場で『ヘンリー四世』を演じた際の逸話は、有名であろう
同店に飛び込み、演劇の台詞で、ゼック(シェリー)を一杯くれ給えと、注文
給仕がシェリー酒ではなく、名物であった発泡ぶどう酒を出した
この故事から、発泡ぶどう酒をゼクトと呼ぶようになった
この店は、ボルツ老夫妻に連れられ、実妹と訪ねた事がある
ユルゲンにとっては、勝手知ったる場所であった
思えば、この店でボルツ翁より結婚を勧められたのが懐かしい
あの時は、まだ決心がつかず、悩んでいた
一番乗り気だったのは、アイリスディーナであった
彼女が自分に兄弟以上の好意を向けているのは、うすうす感づいていた
ベアトリクスとの関係が進展した時も、時々見せた不安げな表情……
あれは、兄弟以上の感情を持っていたのではないであろうか
運ばれてくる料理を待ちながらワインを飲んでいると、ヤウクが尋ねて来た
「妹さんはどうするんだい。このままじゃ行き遅れになるだろう」
東ドイツは、米国の影響を受けた西ドイツとは違い、早婚の習慣が色濃く残る
平均婚姻年齢は23歳で、学生結婚も推奨された
彼なりに、アイリスディーナの将来を案じたのだ……
ベアトリクスが、ふと言い放った
「貴方は、相変わらず優美さに欠ける人ばかり、戦友に持つのね」
彼女は遠回しに、ユルゲンを非難した
彼は、妻の一言を苦笑しながら聞き流す
その一言に噛みついたのは、カッフェだった
「おいユルゲンよ、お前さん、女房の教育が足らねえんじゃねえかい」
ヤウクは周囲を伺う
昼過ぎとはいっても、それなりに客はいるのだ
しかも高級店
カッフェの粗野な奴詞は、この店の雰囲気にはそぐわない
右ひじでカッフェを突く
「軍隊手帳にも書いてあるだろう。人民軍将校に相応しい振舞いをしたらどうだい」
赤い顔をしたカッフェは応じる
「お前さんも、教官みてぇなこと言うんだな」
彼女は、赤い瞳でカッフェの顔を見る
「政治将校に叱られたのを、全然反省していないのね」
エリート部隊である戦術機実験集団内での恋愛騒動……
婚前妊娠の末の
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