第一章
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七年も
小説家の堀田哲正は風呂嫌いである、当然身体も拭かず髪の毛はフケだらけで顔も洗わないので汚れていて全身垢だらけだ。
体臭も凄く親友の前川鉄路以外には付き合いはない。前川はよく彼の家に行って彼と共に酒を飲みつつ笑って話した。
「作家じゃなかったらな」
「こんな風だとな」
堀田はその彼に笑って返した。
「生きていけないな」
「ああ、それで独身主義じゃないとな」
「結婚とかわずらわしい」
「わずらわしいか」
「ああ、戦争に行った時に思った」
前川にこうも言った。
「一人だから死んでもいい」
「悲しむ人は少ないか」
「親はまだいるがな」
「親御さんは悲しむだろ」
「それでも悲しむ人が少ないならな」
例え戦死してもというのだ。
「それでいいだろ」
「そういうことか」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「俺は結婚もしない、それでだ」
「今みたいにか」
「わずらわしいことは出来るだけな」
「しないんだな」
「だから掃除もしないし着替えもしないしだ」
「風呂もか」
「入らない、そういうのはたまにでいいんだ」
掃除や着替えそして風呂はというのだ。
「それでいいんだ」
「じゃあこれからも独身でか」
「この暮らしを続けるな」
「ああ、そうする」
自分も酒を飲んで言った、そうしてだった。
堀田は掃除も着替えも入浴も滅多にしない人生を送っていた、彼は非常に汚れていたがそんなものは気にしていなかった。その彼と付き合うのは出版社の者以外は前川だけだったが彼はそれでもよかった。だがある日のこと。
家に訪問者が来た、堀田は玄関にお邪魔しますという声を聞いてだった。
玄関の方に行くと見たこともない痩せて浅黒い肌の背の高い男がいた、細い吊り目で黒髪をオールバックにしている、着ているスーツは黒で喪服の様だ。
その男を見てだった、堀田は彼にこう言った。
「新しい担当さんか」
「そう思われますか」
「それ以外俺の家に来るなんて前川だけだ」
友人の彼だけだというのだ。
「他に誰がこんな汚い奴の家に来る」
「担当の方はお仕事だからですね」
「来るが皆嫌な顔をする」
こう男に言った。
「臭いし汚いしな」
「人間はそうなのですね」
「人間?おかしなことを言うな」
堀田は男の言葉に違和感を感じて言った。
「あんたも人間だろう」
「そうでないとなれば何でしょうか」
「わかるものか、外見は江戸川さんの作品に出そうだが」
江戸川乱歩のというのだ、気難しく尊大な彼が尊敬する数少ない人物の一人である。それでその作品は全て読んでいる。
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