第三章
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「ここから何度も連勝しないとな」
「諦めないのね」
「先は長いんだ、今負けていても」
そうであってもというのだ。
「勝っていけばいいだろ」
「それはそうね」
千佳も否定しなかった。
「確かに」
「だったらな」
「これから巻き返すのね」
「そして優勝だ」
寿はこの言葉も出した。
「絶対にそうなるぞ」
「そう言うのね、じゃあ二位になってね」
千佳は冷めた目で兄に返した。
「優勝はカープで」
「お前そこは絶対に譲らないな」
「いつも言ってるじゃない、私の全てはカープにあるのよ」
「その血はカープの赤だったな」
「それで身に着けてるものもよ」
赤い上着とソックスである、ただズボンは白である。
「カープの赤よ」
「そうだったな」
「お兄ちゃんが黒と黄色の縦縞と同じよ」
「僕の血はそうなんだよ」
黒と黄色だというのだ。
「心には常に猛虎があるんだ」
「それと一緒よ」
こう兄に返した。
「だから言うのよ」
「優勝はカープか」
「阪神には頑張って欲しいけれど」
それでもというのだ。
「優勝はね」
「カープか」
「そうよ、じゃあね」
「ああ、阪神は絶対に上がるぞ」
この状況でもというのだ。
「正直一瞬でもへこんで」
「一瞬ね」
「絶望してな」
そうなってというのだ。
「もっとな」
「絶望したのね」
「そうなったけれどな」
それでもというのだ。
「僕は立ち直った」
「一瞬でそうなったのね」
「こんなことでくじけるか」
こうも言うのだった。
「それで阪神ファンが出来るか」
「色々あるチームだから?」
「最終戦で甲子園で優勝を逃したりな」
一九七三年のことである、よりによって巨人に惨敗してのことだったので怒り狂ったファン達がグラウンドに雪崩れ込んだ。
「看板選手がトレードに出されたり後味の悪い辞め方したり」
「スキャンダルも言うのね」
「優勝間違いなしから逆転されたりな」
一九九二年、二〇〇八年、二〇一五年とだ。
「それでもな」
「応援してるから」
「こんなことでくじけるか」
「だから今年もなのね」
「優勝する、絶対にな」
「じゃあ二位でね」
「ああ、そうしろ」
こう言ってだった。
寿はスマートフォンを出して今からはじまるビジターの試合の観戦に入った、千佳はカープの試合をそうした。彼はこの状況で絶望から立ち直ってそうした。
絶望を超えた絶望 完
2022・4・29
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