覚醒
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に、トレギアはずっと違和感があったが、彼女は本当に危険な怪獣を望んでいるらしい。
トレギアは続ける。
「怪獣であるけど、それ以上にこれはサーヴァント。ムーンキャンサー。君の、二番目のサーヴァントだ」
「ムーンキャンサー?」
「月の癌のサーヴァント……らしいよ。まあ、詳しいことはいいじゃないか」
トレギアはクスクスとほほ笑んだ。
「コイツは君に従い、成長する。君の世界への憎しみ、恨みそういうものを糧にしていく」
「……」
「まあもっとも、君の心の闇なんて、どこにでもあるものだろうけどね。案外、そういう平凡な感情が一番強かったりするものさ」
「……?」
アカネはトレギアの言葉が理解できないという顔をしていた。
だが、トレギアは首を振る。
「とにかく、このサーヴァント……怪獣が強くなるかどうかは、君次第ということだ。君の感情を吸収し、より強くなる。その、勾玉を通じてね」
「分かった」
アカネはそう言うと立ち上がった。ゴミだらけの室内を踏みながら、部屋の出口へ向かっていく。
「どこに行くんだい?」
「わたしが育てるんでしょ? だったら、必要なもの持って来る」
「必要なもの?」
「うん。……財布、どこだっけ?」
「おや? 外に出るのかい? 珍しい」
「うん。あ、あった」
とにかく空間を埋めるように投げ捨てられているゴミ袋。その足元に埋もれていた財布を引っ張り出し、アカネは外へ出ていった。
トレギアがしばらく待っていると、彼女は戻って来た。手には缶詰が握られており、それを差し出した。
「猫……缶?」
「育てるんでしょ? だったら、ご飯かなって。これ、食べるかな?」
ゴソゴソとアカネのレジ袋の中から次々に出てくるのは、猫缶犬缶、その他多種多様な缶詰類。どれ一つとったとして、手軽に食べられるものがなかった。
「マスター……ムーンキャンサーは犬猫じゃないんだよ? そんなもの、食べるわけがないじゃないか。君の感情を吸収するって言って……」
「だって、何食べるか分からないんだもん。これぐらいしか思いつかないよ」
アカネが口を尖らせる。
すると、ムーンキャンサーは再びアカネに顔を押し付ける。彼女の体をまさぐり、やがて腹から胸、そして肩から腕へ伝っていく。
やがて、猫缶に辿り着いたムーンキャンサー。アカネが「はい」と猫缶を与えるものの、ムーンキャンサーはその口のない顔を押し付けたまま動かない。あたかも猫缶の形状を覚えようとしているかのように、何度も何度も猫缶を撫でていた。
「お? ほら、どうトレギア? 気に入ってくれたみたいだよ?」
にいっと、アカネは純粋そうな笑顔を向ける。
彼女は、人間に対しては決して笑わない。彼女が笑う対象は。
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