第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
足を引っ張る覚悟があるのならば、俺は手助けする心算だ」
彼は、面前の貴公子に問うた
「なあ篁よ……、一つだけ質問がある。
斯衛軍も帝国陸軍と同じように親ソ的雰囲気が強いのか」
茶褐色の勤務服姿の篁は、両手を机の上で組む
正面を見据え、話し始めた
「木原、貴様も分かっているであろうが斯衛も一枚岩ではない。
歴史的経緯から佐幕派、討幕派、尊皇派、攘夷派の流れを汲んだ人間が多数いる。
元帥府とて先の幕閣を無下には扱えなかった……。
民草の中から延喜帝以来の御親政を望む声があるのも承知している」
貴族然とした凛とした佇まい
女人であったならば一目惚れするであろう美貌……
彼は、思わず見入った
「我等の中にも将軍職を本来の形に取り戻したいと思っている人間も多数いるのは事実だ。
主上を輔弼する為の存在であったものが、いつの間にか形骸化した。
しかも世襲職ではないのだから、非常に不安定な立場……」
「大体分かった」
そう言って言葉を遮ると、額に手を当てて瞑想する
意識を遠い過去の世界へ送り込み、前の世界の日本社会を振り返った
伯爵位を持つ人間がソ連のコミンテルン大会に参加し、其の儘亡命した事件……
至尊の血脈を受け継ぐ公爵が軸となって国際スパイ団を招き入れ、敗戦を招く
その当人は、青酸カリの自決となっているが、明らかに不自然な最期であった事……
貴族というのは自らの血脈を残すことを考える節があるのではないのか……
異星起源種の禍に苦しむ、この世界に在っても変わらぬであろう
尊い犠牲の精神や、燃え盛る愛国心を振るう人物ばかりでは無い事は、前の世界で嫌という程見てきた
フランス革命前後から欧州外交を率い、ナポレオンをも弄んだ怪人……
その名は、シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール
帝政ロシアのスパイであり、終生ペテルブルグより年金を得て暮らしていた……
ドイツ統一を果たしたビスマルクですら、親露的な態度を隠さなかった
策謀渦巻く欧州でそうなのだから、人の好い我が国などだまされるのは当たり前だ
今の問いは、篁自身に対しての憂虞を抱いていることの表れでもあった
雲雨の交わりを持った相手が、留学先の米国人
幸い、南部名門で上院議員を輩出し、陸軍大佐を父に持つブリッジス家令嬢……
素性不明の女であったならば、どうしたことで有ったろうか
フランス植民地の残り香漂い、自由闊達な気風の南部人と言う事が救いであった
例えば進歩的な思想にすり寄った東欧系ユダヤ人の多い東部の商都・ニューヨーク
摩天楼に巣食う国際銀行家の連なる人間であったならば、どうなったであろうか……
モスクワの長い手によって、進歩思想に被れる可能性は十二分にあった
また、この事は自分に対する戒めでもある
どの様な
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ