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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
首府ハバロフスク その4
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辺りを選べ。
奴は成績優秀な男だ、ソ連お手製の宣伝煽動(プロパガンダ)にも感化されまい」
男は、顎に右手を当てる
「隊に(たむろ)しているチンピラ共を抑えるには分不相応に思えますが……。
何せ、信念と言う物が有りませんからなあ」
閣下と呼ばれた老人は、顔をその男の方に向ける
「寧ろ、信念が無いと言うのが安全なのだよ……。
なまじ強烈な愛国心など持っていようものなら右派冒険主義に資金を差し出すソ連の工作に乗ってしまう。
反米愛国という甘い誘い口で、どれ程の将来有望な若者たちが(かどわ)かされてきた事か……」
ふと、両切りのタバコを取り出し、火を点ける
紫煙を燻らせながら、続けた
「政治的には無関心な能吏(のうり)……、不安もあろうが、至らぬ処はバルクが補佐しよう。
彼奴(あやつ)も莫迦ではない……、少しばかり手癖が悪いだけよ」
そう言うと苦笑する

「方々に出入りして、粗野な振る舞いをしていたそうではありませんか。
それで、東と揉め事に為ったら……、唯では済みますまい」
 総兵力6万弱の東ドイツとは違って、35万の兵力を要する西ドイツ軍
兵員のほぼ全てが徴兵を受けた青年男子
志願した婦人兵は、通信隊や看護部隊専門
彼の卑陋(ひろう)な言行は、戦術機部隊での悩みの種ではあった
だがエリート部隊と言う事で、彼らの言動は黙認された
 閣下と呼ばれた老人は、シュタインホフ大将に問う
「そこでだ、シュタインホフ君。
君の方からNATOに出向いて話を付けて欲しい……」
その話を聞くなり、立ち上がって反論する
「お待ちください、閣下。
仮に各加盟国が納得してもフランスの対応が読めません……」
彼の困惑する顔を見ずに続ける
「奴等は自分で抜けて置いて、口だけは挟んでくるからなぁ……」
フランスは時の大統領の意向で1966年にNATOより脱退した
その影響もあって、本部機能はフランス・パリからベルギー・ブリュッセルに移転した
だが抜け出したのは、軍事部門だけで政治的な影響力は残す処置を取る
彼等はそのことを悩んだ
 老人は、色眼鏡を外して、周囲を伺いながら告げる
「思えばあの敗戦以来、我が国は独立自尊の道を歩めたのかね」
出席者の一人が漏らす
「11年間にわたる再軍備禁止……、『モーゲンソー計画』での脱工業化。
自前の核も持てず、国土防衛の姿勢で歩んできた」
同調する声が上がる
赫々(かくかく)たる光栄に包まれたプロイセン王国以来の伝統も捨てさせられ、銃剣はおろか、軍帽の類も被れぬ……。
こんな惨めな軍隊では……末代までの恥だよ」
「皮肉だな。露助の傀儡共の方がドイツ軍らしいとは……」


「CIAより変な話が持ち込まれたのは聞いておるかね……」
色眼鏡を再びかけると、男が尋ねる

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