傷跡
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缶詰を手に取る。
その縁についているものは、まだ乾いていない。
「少なくとも、このスーパーを拠点に生活している人はいるってことだね」
「それじゃあ、蒼井さんは本当に……!」
「それが蒼井晶っていう確信はまだないけどね」
ハルトはまた明かりを点灯させながら言った。
「でも、このフロアにはいないみたいだね。……二階、行ってみようか?」
動かなくなったエスカレーターを見ながら、ハルトは提案した。
頷いた紗夜を連れて、ハルトはエスカレーターの階段を昇っていく。
「やっぱり、止まったエスカレーターって違和感あるよね」
全身に感じる重量に、思わずハルトが口を開いた。
「これ、実際に壊れたエスカレーター現象って名前らしいですよ」
「なにそれ」
「脳が、エスカレーターを動くものだと認識しているんです。だから、止まっていると『これはありえない』と、異常を訴えるそうです」
「へえ。ちょっとしたトリビアだね」
そんな会話をしている間に、二人は二階に到達した。
同時に、ハルトは再びライトの指輪で二階を照らす。
一階の食品売り場とは違い、二階は日用雑貨を取り扱っていたらしい。天井から吊るされた看板には、工具類や掃除用具など様々な名前が並んでいた。
「ここ、もしかしてスーパーというよりもホームセンター?」
「だったみたいですね」
紗夜は棚に置いてあった懐中電灯を掴み取った。埃を払った彼女は、そのままスイッチを押すが、中の電池が腐り果てた人工の光が灯ることはなかった。
「蒼井さん! 蒼井さん!」
改めて、紗夜の声が響いていく。
だが、返答はやはりない。
「表にはいない……とすれば、バックヤードかな?」
「そう考えると、一階のバックヤードも探していませんね」
「先に二階から探そう。でも、それが終わったら今度こそ本当に引き上げるよ」
「はい」
紗夜を賛同させて、ハルトたちはバックヤードへ続くドアへ歩いていく。その間、棚の合間を確認するが、晶はおろか、人の姿もなかった。
「失礼しまーす……」
ドアを開き、バックヤードに足を踏み入れるハルトと紗夜。
そこは。
「確かに生活感はあるね」
思わず口からその感想が出てきた。
あり合わせの段ボールと毛布。それと、何本もののペットボトル。
割れた手鏡と櫛、化粧品。どこから持ってきたのか、環境のわりにはとても整備されているようにさえ思えた。
「手鏡と化粧品か……蒼井晶がいるなら、より説得力が増すね」
「はい。今は留守でしょうか」
「まあ、いないってことはそういうことだろうね。……これ以上暗くなると危ないし、俺も明日ここに来てみるよ。見つかったらすぐに連絡するから」
ハ
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