第四章
[8]前話
信秀は吉法師を下がらせ以後彼に何も言うことはなかった、だが今度は彼の妻である土田殿にも言われた。
「やはり吉法師は」
「家を継ぐにはか」
「絶対に駄目だと思いますが」
「ははは、見ておれ」
信秀は妻に笑って答えた。
「それでよい」
「そうなのですか」
「お主はな」
こう言うのだった。
「それでよい、わしの後はな」
「吉法師ですか」
「そう決めておる、あ奴はやるぞ」
確信を持っての言葉だった。
「だからな」
「それで、ですか」
「そうじゃ、瞬く間にわしなぞよりな」
「大きくなると」
「尾張を一つにしてじゃ」
織田家同士で分かれているこの国をというのだ、守護がいても守護代の家の中でそうなっているのだ。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「他の国にも及びやがてはな」
土田殿にさらに言った。
「天下もじゃ」
「まさか」
「そのまさかじゃ、見ておるのじゃ」
笑って言うのだった、そして。
信秀は暫くして吉法師の元服と初陣を見届けてから後の憂いは一切なく世を去った、すると家督を継いだ吉法師即ち信長は。
信秀の言う通りに瞬く間に尾張を統一してだった。
そこから多くの国を領土にし七年で七百万石以上二十国をも越える国の主となった。これには彼にどうかと言っていた家臣達も土田殿もだった。
驚きそして言った。
「大殿の言われたことは間違いではなかった」
「いや、うつけ殿どころか」
「まさに天下の器」
「そうした方であられたな」
「それを見抜けなかったのは我等の不明でした」
土田殿も言った。
「まことに」
「左様でありますな」
「あの身なりと振る舞いだけを見て考えた我等の不明」
「全く以て恥じ入るばかり」
「あれだけの方とは」
「もう誰もうつけ殿とは思っておりませぬ」
土田殿は自分のことも含めて言った。
「左様ですね」
「誰がそう思うか」
「今や一の人、天下を治めるまでになりました」
「思えばあれは大器故の振る舞い」
「世の常識なぞに収まらぬ」
「そういうことですな」
皆こう言った、そうしてだった。
もう信長に疑念なぞ抱かなかった、そして彼の天下の政に従った。大器をこれでもかと見せるその政に。
既に大器 完
2021・11・19
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