第二章
[8]前話
「あそこは」
「それは覚悟のうえだよ、それで十年っていうから」
「仕方ないわね」
「うん、終わろうか」
「ええ、何か色々あったけれど」
「浮気でも喧嘩でもないからね」
「平和に終われるわね、それじゃあ」
私から彼に言った。
「これでさよならね」
「そうだね、さよならだね」
「元気でね」
せめてもと思ってだ、私は彼にこうも言った。
「あちらでも」
「有り難う、君もね」
「元気でっていうのね」
「幸せになってね」
「お互いにね。こう言えて別れられるならいいわね」
私はここで笑った、別れ話というと修羅場になったりドロドロになったりだ。けれどそれがなくてだ。
私はいいと思った、それで彼に話した。
「後味が悪くもない別れ方だし」
「最後はお互い笑顔でね」
「別れましょう」
「それでさよならだね」
「ええ、これを飲んだら」
目の前のカシスオレンジを見つつ言った、彼の前にはモスコミュールがある。
「笑顔でね」
「終わろう」
「そうしましょう」
二人で話してだった。
お互いにカクテルを飲んで別れた、さようならと笑顔で挨拶を交えて。
私は彼と別れた、一人になっても涙は流れなかった。家に帰ってシャワーを浴びて終わったと思っただけだった。
彼と別れて暫くして私は仕事で知り合った人と交際する様になってその人と結婚した、子供も二人出来た。
歳月は経って私は夫と子供達を連れてテーマパークに行った、そこで夫と二人で子供達をテーマパークの中のあちこちに連れて行っていると。
ふと子供連れの一家と擦れ違った、奥さんは金髪碧眼でどう見ても白人の人だった。肌の色も真っ白だった。
子供は三人いたけれどハーフだった、その一家と擦れ違って。
ご主人の顔を何処から見たかしらと思った、そして家に帰ってから彼だとわかった。そしてもう十年なんて過ぎ去っていることにも気付いた。
さようならと言って終わった、そしてもう擦れ違っても後で気付く位になっていた。本当にあの時のさようならはさようならだと思った。全てが終わって他人同士となったものだと。私はそのことを思ってから晩ご飯を作った。夫と子供達に作って一緒に食べる晩ご飯はいつも通りこれ以上はないまでに美味しかった。
FAREWELL 完
2021・9・29
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