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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
華燭の典
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出し、口に咥える
再び椅子に腰かけると、右手で火を点けた
 暫しの沈黙の後、
「君は、ユルゲンの手助けをするつもりで士官学校でスパイの真似事をしたそうではないか。
それは君の父の立場があって初めて出来た事だ。
だが政治の世界はそんなに甘くはない」
ゆっくりと紫煙を燻らせる
「政治家に為ればあらゆるものと戦わなくてはならない
例えばKGB、独ソ関係はこの国の根幹だ。
奴等は文字通り地の果てまで追いかけて来る」
一旦考え込むようにして、目を閉じる
再び目を開くと、語り始めた
「嘗て帝政ロシアとインドを結ぶ中間地点にあったチベットに影響力を及ぼす為に、秘密警察(オフラナ)は蒙古人の仏法僧を仕立てた。
同地の支配者である活仏のダライラマに近づき、親露的な態度に変化させるという離れ業をやった」
白磁の茶碗を掴むと、冷めた茶を飲む
「何時ぞやの逢瀬の際に、君はこう言ったそうではないか
『人類を救うために、多少の犠牲は必要』と
乳飲(ちの)み子の戯言(ざれごと)だと思えば、怒る気にもならない。
だが、政治家なら別だ。
その様な絵空事(えそらごと)では国は運営できない。
10万平方キロメートルの国土と1600万の人口を抱える小国の我が国ですら、自分達を餓えさせぬ為にはあらゆる手段を用いてきた。
遥かに豊かで国力も強大な米国ですら、自国民を守るのに必死だ……」
面前に座る男女の顔色を一瞥する
「嘗てソ連は国際共産主義運動(インターナショナル)の名のもとに様々な悪行を成したが、どの結果も惨憺(さんたん)たるものであった。
君の今の言葉は、私にはそれと同じに思える。
三億の人口と広大な領土を持つソ連は、途方もない?や誤魔化しが常態化している。
多数の収容所と、それに依存した経済制度……。
成年男子の大量減少という未だ癒えぬ大祖国戦争の傷跡。
仮にBETA戦争から勝利したとしても、前から誤魔化しが残り続ければ、人々を苦しませるであろう」
じっと彼女の赤い瞳を見つめる
「君のような夢想家は、一介の職業婦人、一介の妻として過ごした方が幸せに思える……。
君のこの様な態度は、君自身や家族ばかりではなく、やがては、ユルゲンや彼の親類縁者までも不幸にしよう」
右手で、灰皿にタバコを押し付ける
そして吸い殻を入れた
「女が政治の世界に入ると言う事は、家庭人としての幸せ……。
つまり妻や母となる楽しみや機会すら捨てざるを得ない。
常に寂寥感(せきりょうかん)(さいな)まれ、疑心暗鬼(ぎしんあんき)の中で一生を過ごす……。
仮に彼が思う所の理想を叶えたとしても、果たして幸せと言えるのかね」
 不意に立ち上がり、室内を歩く
窓外の風景を覘く
「ユルゲンの理想を成就させる同志の立場ではなく、妻としてこの男に寄り添っては
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