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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
華燭の典
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るの……。
もちろん貴方方との会話も……。その時の報告の様を想像すると楽しいでしょう」
ヤウクは、哄笑する
「それは傑作だ。
聞きしに勝る才媛(さいえん)とは、君のような方を言うのだね」
鋭い眼光が彼に向けられる
恋慕(れんぼ)している人がいるとは思えない優美さに欠ける言葉ね」
内密にしている美少女への思い
調べ上げていたとは……
人民軍内部への浸透工作に、改めて舌を巻く
「貴方にお返ししますよ。お嬢さん」
そう漏らすと、ユルゲンの右腕に彼女が両腕を巻き付け、抱き着く
巻き付かれた当人は、自らに向けられる周囲の視線が、身を切られる様に痛い
大層恥ずかしがっているのが、彼には分った
 彼は、懐中より紙巻きたばこを取り出し、火を点ける
軽く吸い込むと、紫煙を吐き出す
「話してみると、至って普通の御嬢様って感じじゃないか。
安心したよ、ユルゲン」
ユルゲンを安心させるようなことを言う
だが彼は、内心こう思った
(『君の事だから、保安省の間者共に弄ばれたかと思って、冷や冷やさせられたよ』)
脇の甘い同輩を本心より心配したのだ


 夕刻、議長公邸にユルゲンは呼ばれた
ベアトリクスを伴ってきた彼には、呼び出した男の意思が理解出来なかった
男は、彼女の考えを知るべく、執務の合間の貴重な時間を使ってわざわざ会った
来客用のソファーに腰かけると熱い茶が出される
彼女は、甘い香りのする茶を頂く
静かに白磁の茶碗をテーブルに置いた後、男へ尋ねた
「何が言いたいのかしら」
きつく睨み返された男は、薄ら笑いを浮かべて続ける
「端的に言おう。君のような人間は政治の世界に踏み込んではいけない。
ユルゲンが戦術機の国産化の為に君やアベールを介して保安省に近づこうとしてたのは、俺も知っている」
彼女は驚いた
まるで自分の息子に呼び掛ける様にして、ユルゲンの名前を告げた事を……
「君が士官学校に入ったのも、ユルゲンを後方支援するためだったろう。
本気だったことは理解できる」
彼は驚愕した
あの慎重な男がここまで踏み込んだ発言をするとは……
「政治とは圧倒的な力の下で如何に支配するかという薄汚れた世界だ」
彼女は苦笑した
甘い希望を言う様に呆れた素振りを見せる
 彼は怯まなかった
「政治ってのは綺麗事や理想では出来ない……。
政治家は良い意味でも悪い意味でも常識は捨てなければならない」
タバコを灰皿に捨てると、右手で揉み消す
立ち上がると、彼女の周囲を歩き始めた
「自分の裸身を曝け出して、衆人の前で練り歩く……。
それくらいの覚悟が無ければ、政治家は出来ない……」
彼女の見た事のない表情にユルゲンは焦った
厳しい表情で、男は続ける
「君に、それ程の覚悟はあるかね」
懐中よりタバコを取り
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