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冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
華燭の典
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ベルリン・フリードリヒスハイン人民公園
ユルゲンは、ソ連留学組の仲間を連れ立って国家保安省本部にほど近い公園を散策していた
この場所は、彼にとって思い入れの深い場所
ベアトリクスとの逢瀬(おうせ)(たび)に良く訪れたデートスポットの一つ
広大な公園の片隅で、気のおけぬ会話を楽しんだことを懐かしむ
ここに戦時中避難させていた美術品の類はソ連占領の際に忽然(こつぜん)と消えた
一説には焼き払ったとも、誰かの豪奢(ごうしゃ)な邸宅を飾ってるとも聞く
かのティムールの陵墓を(あば)き、遺骸を晒すという、神をも畏れぬ所業をする連中の事だ
恐らく掠め取ってモスクワにでも秘蔵してあるのであろう

 そんなことを考えている時、カッフェが不意に尋ねる
「それにしてもさ、前から気にはなっていたんだけどよ」
彼は竹馬(ちくば)の友の問いに応じる
「何だよ」
「お前さあ、いけ好かない(アマ)に惚れたんだよ。
特権階級(ノーメンクラツーラー)らしく、目付きの悪い……」
半ば怫然(ふつぜん)として答える
「あの鋭く美しい赤い瞳……、晃々(こうこう)たる光を内に秘め、知性を感じさせる……。
良い面構えじゃないか」
彼女の眼光炯炯(がんこうけいけい)たる面構えを彼は思い描く
 ヤウクは、思い人を熱く語る彼を(たしな)めた
「ユルゲン、今は休日とはいえ、制服姿……。
いわば勤務中と同じだぞ。
主席幕僚として恥ずかしくは無いのかい」
建前とはいえ、堅苦しい事を言う
彼は、同輩に返答する
「別に問題は無かろう。今日は、休日だ。
惚れた女の話位した所で、(ばち)も当たるまい……。
お前さんだって、彼女の良さに興味が無い訳でないであろう」
同輩は黙って頷く
暫しの沈黙の後、カッフェが口を開く
「何故って、一度見たらあの傲慢さ……、忘れねえぜ。
人を見下すような目で見て、態度も悪いし……
不愛想とはいえ、ヴィークマンの方が余程(よっぽど)可愛げのある女だぜ」
 事情を知らないヤウクが驚く
「通産次官のお嬢さんって、そんなに(ひど)い娘さんなのかい。
なんでも、あの助兵衛(すけべい)が惚れ込むほどの美人だって話には聞いてはいるけど……
如何なんだい、ユルゲン」
暗にアスクマンの事を(くさ)した
カッフェは、同輩(ヤウク)の戯言を無視して続ける
「あんな性悪(しょうわる)女、見た事ないくらいだぜ」
右の親指で、満面朱を注いだようになっている彼を指差す
「もっとも、()()の馬鹿には何を言っても無駄だろうがな」
そう言い放って揶揄する
「言わせておけば、貴様こそ《手順》すら守れない恥知らずじゃないか……」
暗に婚前妊娠の責任を取って結婚したカッフェを面罵(めんば)する
邪険(じゃけん)な雰
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