第2部
エジンベア
商人としての資質
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意したように顔を上げた。
「そうだよ。もともと家のためにお金を稼ぎたいって気持ちはあったけど、師匠に弟子入りするようになってから、だんだん父さんの凄さに気づいたんだ。アネキや他の姉弟は知らないだろうけどさ、父さんの商売としての腕はすごいんだ。仕入れたものはどんなことがあっても全部売りきる。それがどれだけすごいことか、アネキにわかるか? おれの目標は父さんみたいな……いや、それ以上の商人になりたいと思ってるんだ」
昔は弟妹の誰よりも手のかかる子だったルカが、こんなことを言うなんて夢にも思わなかった。けれど確かに今、彼は自分の足で自分が目指す道を歩んでいる。しかも、誰一人身内もいない遠くの地で。そんな彼の思いを、蔑ろにする権利は私にはなかった。
「ユウリ……」
私は、すがるようにユウリに目を向けた。いくら私が納得しても、結局はパーティーのリーダーであるユウリに判断を委ねるしかない。黒胡椒を売るかルカを同行させるか、どちらを取るか……。
「わかった。ならルカを預かる」
その意外な答えに、私は目を丸くした。ユウリの性格なら、きっと黒胡椒を売るかと思ったのに。
「ただし、俺とともに行動するからには、俺の指示にしたがってもらう。出来なければすぐに置いていくからな」
「ふむ……。まあ、それはこの子の心がけ次第だよ。コミュニケーションを学ぶのも修行のひとつだしね。とにかく商談成立だ。ルカをあんたらに預ける代わりに、髪飾りの件はチャラにしてやるよ」
そして「必要なら誓約書でも書くかい?」とドリスさんは聞いてきたが、ユウリは面倒くさそうに断った。
「さっきも言ったが、俺たちは急いでいる。これからノルドというホビット族に会いに行くから、今日中に準備をしておけ。できなければとっとと置いていくからな」
「はっ、はい!! 今から仕度してきます!!」
にべもなく言い放つと、ルカは身を縮こませながらも頷いた。そしてすぐさま店の奥へと引っ込む。
「全く、次から次へと面倒事を持ってくるな、お前は……」
ちらりと私の方を見ながら、はあ、とわざとらしく息を吐くユウリ。うう、確かに髪飾りを失くしたのは私だけど、そんなに次から次へと面倒事は持ち込んでないはず……たぶん。
自信はないので下手に反論できず、私が口ごもっていると、ドリスさんと目があった。
「短い間だったけど、あんたの弟と一緒に仕事が出来て良かったよ。あんたも含めて、周りの環境が良かったんだね」
そう言うと、ドリスさんの目尻の皺が一層深く刻まれた。
「私も、ドリスさんがルカの師匠で本当に良かったです。あのやんちゃな弟があんなに変わるなんて、信じられないですもん」
私は幼い頃の弟の姿を思い浮かべ、つい苦笑してしまった。きっとドリスさん以外の人だったら、あそこまでしっかりした商人になれなかっ
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