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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十九話 余波(その5)
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あり、敵兵力の殲滅だ」
俺の言葉にヤンが笑みを浮かべた。
『そう、それだよ、ワイドボーン』
「……殲滅か」
俺の言葉にヤンが頷いた。
『彼は情け容赦なく帝国軍を殲滅している。そして謀略を仕掛け国内を混乱させた。混乱はこちらの予想以上に酷いらしいね。現時点では帝国軍は外征が困難な状況にある』
「敵の継戦能力を削ぐという意味では完璧と言って良いだろうな」
ヤンが頷いている。ここまでならヴァレンシュタインの戦略は敵兵力の撃滅による継戦意志、能力の消滅だろう。こちらからは侵攻しないが攻め込んで来れば容赦なく叩き潰す。実際に歴史を振り返って見ても例は有る。戦争を仕掛けたが手酷い敗北により継戦意志、能力を失う。そしてその先に有るのは停戦、和平……。
『私は帝国軍が外征を行えるようになるまで最低でも五年はかかるだろうと見ていた』
「五年か……」
『最低でも五年だ。帝国人の政府への不信を解消し政権を安定させ軍を再編するには最低でも三年はかかるだろう。そして戦争準備に二年、負ける事は許されないからね、そのくらいはかかると思ったんだ』
五年か……。その期間を同盟がどう過ごすかだな……。軍の再編、整備はもちろんだが経済を中心とした内政問題……。上手く行けば実りのある五年になるだろう。帝国軍の再侵攻を万全の状態で迎え撃てる。或いは帝国側が再侵攻を延期せざるを得ない状況まで持って行けるかもしれない……。
『彼がフェザーンに行くと聞いた時、私が思ったのは彼は帝国を崩壊させるまで叩くつもりではないのか、彼の心の奥底には帝国への強い恨みが有るのではないかという事だった。……或るいはミューゼル提督への恐怖の所為かもしれないと……』
ヤンが目を伏せ気味にし、抑揚の無い口調で話している。ミューゼル提督の事はヴァレンシュタインだけじゃない、あの時ヴァンフリートに居た人間にとって拭い去りようの無い悪夢になっている……。
「或いはトリューニヒト国防委員長がそれを望んだという事も有り得るだろう。しかしどうやら違うようだな」
『そうだね、別な目的が有ったようだ』
「フェザーン、地球か……。帝国、同盟にとって共通の敵が出来たな」
ヤンが頷いている。
『それに対応するために帝国と同盟で協力体制が出来た』
「それが奴の狙いだとすると……」
『行きつく先は和平、或いは休戦状態……。帝国は国内体制を整えたいと考えているはずだ。同盟との和平、或いは休戦状態は望むところだろう』
暫くの間互いの顔を見つめ合った。やがてヤンが一つ大きく息を吐いて視線を逸らす。
「とんでもない奴だな」
『そうだね、一体彼には何が見えているのか……。時々恐ろしくなるよ』
普段なら窘めていただろう、だが今はそんな気になれない。第一窘める事に効果が有るとも思え
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