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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十九話 余波(その5)
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な、だとしたら余計に始末が悪いさ」
だから強く文句を言えない。あの知能犯め、いつもこちらに恩を着せる形を作るのだ。

『以前、彼に訊いたことが有る。用兵家としてのアッシュビー元帥をどう思うかとね。確かアルレスハイムの会戦の後だったかな』
「ほう、面白い質問だな。奴は何と答えた」
俺の問いかけにヤンが微かに笑みを浮かべた。

『彼は優れた戦術家であり情報の重要性を理解していたと答えたよ。……まあ大体予想通り、だったね』
ヤンが俺を見ていた。俺の答えが欲しいらしい。

「褒めているように聞こえるな、他の人間が言ったのなら」
『そうだね、褒めているように聞こえる』
俺の言葉にヤンが頷いた。口元に笑みが有る、おそらくは苦笑だろう。或いは冷笑か……。

アッシュビー元帥は優れた戦術家か……。確かにその通りではある、他の者が言えば正当な評価、褒め言葉だと言えるだろう。しかしヴァレンシュタインが言ったとなると単純に褒め言葉とは取れない。不思議な事にいささか複雑な色を帯びて聞こえてくる。

「ヴァレンシュタインは戦略家だ。その奴が戦術家とアッシュビー元帥を評した、いや貶めたか」
『酷い言い方をするね、ワイドボーン』
「そう言うお前も顔が笑っているぞ」
俺の指摘にヤンの笑いがますます大きくなった。

ヴァレンシュタインが戦略家ならヤンも戦略家だ。二人にとってアッシュビー元帥は優れた戦術家ではあっても戦略家ではなかった。ましてアッシュビー元帥は宇宙艦隊司令長官だったのだ、物足りなさを感じてもおかしくは無いだろう。

『私はずっと不思議に思っていた。ヴァレンシュタイン中将の狙いは何なのかとね。彼は戦略家だ、その戦略目的は何なのか……。或いは戦略など無くただ復讐のために戦っているのか……』
「確かに気になるな。……ヤン、今回の一件で何か見えてきたか? 俺には朧げにだが見える、いや感じる物があるんだが」

ヤンの顔から笑みは消えている。生真面目な学究的な人間の表情だ。普段から今の表情をしていれば非常勤参謀などと言われずに済むのに……。普段はどうみてもやる気なしのぼんくら参謀だからな。

『彼はイゼルローン要塞攻略、そして帝国領への侵攻を危険視している。彼の作戦案の根本にあるのは同盟領での迎撃だ。しかし敵を打ち破るだけではアッシュビー元帥となんら変わるところは無い』

前回のイゼルローン回廊での戦い、奴がグリーンヒル大将に提示したイゼルローン、フェザーン両回廊制圧作戦、そのどちらにもそれが有る。いや、それ以前にも帝国領へ踏み込んで戦う事に対して否定的な考えを示している。帝国出身者だけに帝国領侵攻の持つ危険性を同盟人よりも重く見ているのだろう。

「……確かにそうだな。ヴァレンシュタインの作戦の根本にあるのは同盟領での迎撃で
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