第二部 1978年
ミンスクへ
シュミットの最期
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
将が後ろから支えた
「同志大臣、気を確かに為さってください」
彼を、椅子に座らせる
落ち着かせた後、議長が再度、尋ねた
「資料の管理は、俺がアスクマンに任せた。
まさか……」
己が失態を暗に認める発言をする
額に、右手を当てる
襲撃事件の首謀者は、アスクマン少佐の一派……
シュミットの反乱に乗じて、資料を持ち出す
名うての工作員であれば、容易かろう
万が一の事を考え、アスクマン少佐の対応を念頭に置いた発言をする
「奴の子飼いの部下共が、欲に目が眩んで、外に持ち出した。
有り得ぬとも言えぬな」
男は、机に置いてある『ジダン』の封を切り、タバコを取り出す
両切りの紙巻きタバコを机に数度叩き付ける
葉を詰め、吸い口を作ると口に挟む
マッチで火を起こし、紫煙を燻らせる
暫し、目を瞑る
「原本は無事か」
再び目を開き、タバコを吹かす
面前で立ち尽くす保安省職員に尋ねた
「個人票の方は……秘密の場所に移してあります。
大部分が無事な状態です。
ですが、複写物は丸ごと消えました」
人差し指と中指に挟んだタバコを灰皿に置く
灰皿より紫煙が立ち昇り、部屋中に広がる
「個人票が残ったのは、せめてもの救いだ……。
大方、ボンか、CIAにでも売り飛ばしたのだろう」
タバコを掴むと、再び吹かす
「で、お前さんは如何したいんだ……」
項垂れる内相に、顔を向ける
彼の口から、アスクマン少佐の対応を聞き出すつもりで尋ねる
「奴と、奴の部下を免職の上、国外追放の処分にするつもりです」
「つまり、俺に恩赦を出せと……」
内相は、ゆっくりと頷く
「来年は建国30周年記念です。それまで形ばかりの裁判をして拘留し……」
火の付いたタバコを持つ右手を、顔から離す
「今日、只今を持って奴を罷免。
シュミット同様、反革命罪にする」
『反革命罪』
嘗てスターリン時代のソ連で出された罪状
謂わば、国家反逆罪に相当する
その内容は、『国際ブルジョワジー幇助』『労農ソビエト政権の転覆及び破壊』
死刑が条文から廃止されていた1922年のソ連刑法において、事実上の死刑判決に相当する物
事を穏便に収めようとする内相に対して、男は敢てその言葉を選んで伝えたのだ
タバコを弄びながら答える
「これは議長命令だ。政治局会議も、その線で行く」
内相は、男に束になった資料を渡す
「これが奴の監視して居た被疑者の一例です」
資料を乱雑に受け取り、その中から無選別で抜き取る
写真入りの個人票を一瞥した
男の表情が、変わる
彼に、問う
「この資料にあるリィズ・ホーエンシュタインという人物……。
まだ、12、3の小娘ではないか」
美男美女と見るなり、被疑者に仕立て上げ、手を出し、辱める
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ