第二部 1978年
ミンスクへ
国都敗れる
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気にはせんよ」
彼は、首を垂れる
「君は、やはり死んだ息子さんと、ユルゲン君を重ねているのかね……」
勢いよく、紫煙を吐き出す
「最初の妻と子供と言う物は、忘れられぬのよ……。
アイツが生きていたら……、年の頃も同じで、しかも、金髪だ」
彼は右手で、眼鏡を持ち上げる
「まるで、そっくりに思えちまう……。
良い美男子で、馬鹿正直だ」
彼は冷笑する
「君らしくないな」
照れ隠しであろうか、タバコを深く吸い込んだ
「俺は、あんな男が父無子扱いされてるのを見てな、不憫に思った訳よ」
男は、精神病院奥深く幽閉されているヨゼフ・ベルンハルトの事を思い起こす
シュタージの策謀で酒漬けにされ、暗黒の監獄へと消えて行った元外交官を悲しんだ
親指で、タバコを弾き、灰を灰皿に捨てる
「今の立場に居る間は、奴の実績を積ませたい」
再び、右手に持った煙草を吸いこむ
「いざ倅だと思うと、甘やかしちまう。
シュトラハヴィッツ君やハイムに教師役をやらせるにも不安がある。
いっそ、雑事が済んだら、米国に出して『武者修行』させたいと考えている」
彼は組んでいた腕を解いて、腰に回した
「君、その話は……」
力なく、両腕を垂れる
「義父になる貴様に話したのが初めてだ」
男は真剣な表情で、彼の方に振り返った
「どうせ、この国は吹っ飛ぶ。
俺は店仕舞の支度をしてる番頭にしかすぎん」
男は、再び窓外の景色を見る
「俺としては、半ば押し込めに近い形で《おやじ》を追い出して得た権力だ。
常日頃から、民主共和国は正統性が問われてきた」
灰皿に、火が点いたタバコを投げ入れる
「10年前の憲法改正や、各種の法改正も記憶に新しいであろう。
もっとも君はそれ以前の事から知る立場であろうが……」
懐中より『ジダン』の紙箱を取ると、タバコを摘まむ
「おやじは、ボンの傀儡政権ではなく、アメリカの消費社会を見つめた。
それは、なぜか。
民衆は、確かに西の豊かさを壁伝いに聞いているし、欲している。
おやじとて、政権を取って以来、民衆がアメリカの消費社会に焦がれている様を知っていたからだよ。
君等とてそうであろう」
唇に挟むと、再び火を点けた
「それ故、アメリカに歩み寄る姿勢を見せ始めたのだよ。
俺はその《おやじ》の描いた絵をある意味、なぞっているにしか過ぎぬのであろう……。
そう思えてきたのだよ」
「貴様に行っておくが、今年の秋までにブル選をやりたい。
SPDにいる元の共産党の仲間にでも声を掛けろ」
彼は、男の一言が信じられなかった
ブルジョア選挙(普通選挙)……
SPD(ドイツ社会民主党/Sozialdemokratische Partei Deutschlands)
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