暁 〜小説投稿サイト〜
鏡合わせの吉原 〜死んだら吉原にいました〜
1話 ここは吉原!?
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[9] 最初
なく置かれている新聞があったので日付の確認した。
 大正3年3月22日……!?
 ちょっと待て。大正三年だと?
 思わず日付を二度見した。
 やっぱり大正三年三月二十二日だ。 
 どういう事だ。大正時代に来ている?!
 新聞の文面を追った。
 普通に読めるぞ。生前の俺は日本語は嗜んでなかったのだが……。
 茫然とする俺に朝食を用意する男は、俺にこう言って慰めた。
 
「余程悪い夢を見ちまったようだな。まあ、気にしないで朝飯にしようぜ」

 白いご飯に大根の漬物、焼き鮭と味噌汁が出て食べた。なんとなく懐かしい。
 そういえば箸もあんまり使った事が無かったが体が覚えているのか普通に扱えた。
 ところで目の前で一緒に朝飯を食べるこの男は何者だ? 一体、誰だ?

「な、なぁ。名前、何だっけ?」

 これで呆れるのは何度目か? という感じで呆れたこの男は、やれやれという感じで名前を教えてくれた。

酒井(さかい)酒井成広(さかいなりひろ)。お前と同じ幇間だよ。宜しく頼むぜ、同僚」
「よ、宜しく」

 酒井……か。何処かで聴いた事があるような名前だ。一体何処で聞いたのだろう?
 生前の記憶を探ろうとした途端に頭に鋭い痛みが走った。まるで刃物で切られるように。

「うっ……!」

 思わず頭を、後頭部を手で触る。
 脈打つように痛みが走る…!
 何なんだ、これ?
 昔というか、生前の記憶を探ろうとすると鋭い痛みが走る。

「大丈夫か? 頭痛がするのか? 医者に罹った方がいいんじゃないか?」
「……だ…大丈夫。もう収まったよ」

 あまり昔の事は思い出すな、ということか。もう吉原にいるのだから。
 朝飯を食べている間にラジオが流れていた。
 でも俺達にとっては関係ない雲の上の話で、今は現実を知らないと。

「仕事はきたのか?」
「なんでも京町二丁目の楼閣【桜華楼(おうかろう)】から俺とお前と別の長屋に住む、池本(いけもと)さんと夏村(なつむら)さんが指名されたようだよ。三味線ができるのだろう?」
「あ、ああ」
「きちんと手入れしておけよ」

 そうして朝飯が終わると午前中は自由時間なので揚屋町を散策した。吉原の中にある普通の町。
 そういえば草履も初めて履くような。でも履き心地は良い。
 大正になり、この揚屋町も近代化している。
 カフェなるものが多いし、吉原の女郎の居場所も「貸座敷」とか「楼閣」と呼ばれる。
 引手茶屋は相変わらずだが近代化してカフェのようになっている。
 そして遊女達は表向きは解放されたかに見えたが実情は違う。
 そして、ここから、俺の数奇な運命も廻り出す。

[9] 最初


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