第二部
第一章 〜暗雲〜
九十 〜秘め事〜
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」
「そうですわね。歳三様、他には?」
「三つ目は、速やかに軍を引き上げ、交州に戻る事だ」
「ご主人様。それでは、賊征伐という名目を捨てるという事になりませぬか?」
「そうなるな。恐らく、その道を選んでも何らかの誹りは免れまい」
「…………」
全員が押し黙る。
「そして、四つ目。禀、申してみよ」
「御意。先ほど歳三様が仰せの通り、速やかに全軍で襄陽に向かいます」
「だが、禀。賊の大義名分もない郡に進軍すれば咎めを受けるのではないか?」
禀はフッと笑みを浮かべる。
「此度の事、最初から全て仕組まれていた事なのですよ? どう動こうと、歳三様には何らかの咎めがありましょう」
「むう。だが、主は何一つ間違った事はしておらぬぞ?」
「そうです。だからこそ、自ら動いた方がこの場合は良いと考えます」
「そうは言うが、禀。襄陽に向かえば、今度こそ劉表軍と一戦交える事にならぬか?」
「いえ、その可能性は低いと思いますよ、彩」
「どうしてそう言い切れる?」
「まず、劉表軍の質と量の問題があります。そうですね、紫苑殿?」
「ええ。実戦経験に差があり過ぎる上に、此方には将が揃っているわね。その点、劉表様の軍は戦になると心許ない事は否めないわ」
「仮に我が軍と対峙するとなっても、戦場は水上ではなく陸上です。劉表軍の主力は水軍ですから、自ずから勝負にならないでしょう」
この顔触れならば、相手が劉表ならずとも後れは取るまい。
幸い、此度の遠征での被害は軽微で、負傷者を除いても兵数はまだまだ余力がある。
「それはわかった。だが、劉表殿が我らの行動を張悌に訴え出る恐れもあるが」
「愛紗ちゃんの懸念もわかりますが、それも問題ありませんねー」
と、代わって風が答える。
「蔡和さんを斬らなかった事がそこで生きるのですよ。襄陽に送り届けるという名目が出来ますし」
「なるほど。だが、その罪状を記して城下に晒した事はどうする? 既に劉表殿に知れているやも知れんぞ?」
「でしょうねー。でも、同じ事を襄陽とか、荊州全土に流布しておいたらどうでしょう?」
「そうか。劉表殿が知らぬ存ぜぬを押し通す事が出来なくなる、か」
「ご名答ですよ、疾風ちゃん。市井の噂は馬鹿になりませんし、そうでなくても荊州は人の出入りが多い土地ですから」
二人の述べた事は、概ね私の考えと言える。
「聞いての通りだ。異論のある者は申せ」
「いえ。主がそこまで覚悟を決めておられるなら、我らは従うまでです」
星が口火を切ると、皆が口々に賛意を唱えた。
「決まりだな。急ぎ、出立の準備を整えさせよ」
「応っ!」
彩らが、部屋を飛び出していく。
番禺にも急ぎ、知らせねばなるまい。
桜花(士燮)らの事だ、手抜かりはないと思うが……念には念を入れておくに越した
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