第二部
第一章 〜暗雲〜
九十 〜秘め事〜
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明命から事のあらましは聞かされていたのであろうが、それでも私の話に聞き入る睡蓮麾下の三人。
幸か不幸か、彩(張コウ)や愛紗らは軍務に追われ、この場にはおらぬ。
火に油を注ぐような真似はせぬと信じたいが……。
「……つまり、儂らは劉表の罠にかかった……と言うのじゃな?」
「いや、あくまでも推測に過ぎぬ。真相は別にあるやも知れぬ」
「ですが、睡蓮様を殺めた者は紛れもなく劉表麾下。責任は免れませんね」
「……祭さま、飛燕(太史慈)さま。やはり、劉表をこの手で」
無念そうに唇を噛み締める明命。
「止さんか、馬鹿者。如何にお主とて、州牧を暗殺するなど無謀の極みじゃ」
「ですが!」
「明命。無念なのは私も祭様も同じ……叶うならこの手で、一矢報いたいのですよ」
普段は穏やかな飛燕ですら、無念に肩を震わせている。
「歳三さま。覆面の軍師が真に馬謖という者かどうか、私が調べてみます」
「待て、お前の主は私ではない。事ここに至れば、雪蓮の判断を仰がねばなるまい」
「…………」
「とにかく、今宵は休むのが良かろう」
このような事しか言えぬ己が、実に歯がゆい。
だが、私は祭らに命令を下す権限も権利もない。
睡蓮という礎を失った孫家がどうなるのか……私にも読めぬ。
夜更け。
既に床についてはいたが、気配で目覚めた。
殺気が全くないところから、曲者ではないようだが。
「何奴だ?」
「……すまぬな。このような時分に」
漂う酒精の香りと、声で素性が知れた。
「祭か」
「応。どうにも眠れぬのじゃ、一杯付き合ってくれぬか?」
「私があまり酒に強くない事は存じておろう?」
「無論じゃ。それでも、どうしても歳殿と話したくてな」
眠りを妨げられ、いずれにせよ目が冴えてしまった。
それに、祭の口調は何やら曰くありげだ。
「……わかった。今灯りをつける」
臥所から出て、燭台に火を点す。
朧気な炎の向こうに、祭の顔が浮かんだ。
いつもは気丈で貫禄のある顔が、窶れて見えた。
「疲れているようだが。休んだ方が良いのではないか?」
「ふふ、眠れぬのじゃよ。儂とした事が、な」
そう言いながら、祭は手近の椅子を引き寄せた。
軽く一升は入るであろう大徳利から、持参した茶碗に酒を注いだ。
「ほう、原酒だな」
「流石は歳殿じゃ。さ、一献」
「うむ」
茶碗をかちりと合わせ、口へと運ぶ。
割水を一切行わぬ原酒は、祭のような酒豪には好まれているようだ。
無論、私は一気に呷るような真似は出来ぬ故、少し口に含むのみ。
「ふーっ、胃の腑に染み渡るのう」
「……そうだな」
一気に飲み干した祭は、再び徳利を傾ける。
「のう、歳殿」
「何だ」
「堅殿を、どう思っておったか。率直に聞かせてくれ
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