第一章
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そんなこと出来るか
墨坂治平は昭和十一年に阪神タイガースが創設されてからの阪神ファンである、本拠地甲子園球場がある西宮で老舗の呉服屋をしている。昭和元年生まれで流石に店の仕事は隠居しているが阪神ファンであることは変わっていない。
甲子園球場に足しげく通い二軍のチェックも怠っていない、週刊ベースボールもデイリーも月間タイガースも愛読している。
だが彼はいつも言っていた。
「何で阪神はあまり優勝せんのじゃ」
「あまりじゃなくて殆どでしょ」
やしゃ孫である高校生の黒羽にこう言われた、黒髪のロングヘアで切れ長の奥二重の目でやや面長の顔で色白ですらりとしたスタイルだ。背は一六〇程で穏やかな服装だが高校生らしい雰囲気を出している。
「それは」
「お前も阪神ファンだろうに」
「ファンでも現実だから」
黒羽は治平にこう返した。
「だからよ」
「滅多にか」
「そもそもニリーグになってシリーズ出場何回？」
「五回だ」
治平はきっぱりと答えた。
「そして日本一は一回だ」
「その直後位に出て来たホークス何度？」
「シリーズ出場二十回か」
「リーグ制覇もれ位でしょ」
「日本一は十一回だな」
「圧倒的じゃない」
その差たるやというのだ。
「もうね」
「お前パリーグに興味ないだろ」
「それでも覚えてるのよ」
「伊達に進学校に通ってないか」
やしゃ孫の成績の良さからも言った。
「そうか」
「それとは別よ、というかひいひいお祖父ちゃんもぼけてないわね」
「いつも阪神のことを考えて甲子園にまで行ってるんだぞ」
「試合のない時もね」
「わしにとって甲子園はもう一つの家だ」
そこまでのものだというのだ。
「だからだ」
「毎日行ってるわね」
「歩いてな」
「それで頭も足腰もしっかりしてるのね」
「九十過ぎてもな、一リーグの頃はよかった」
治平はこうも言った。
「阪神は強かった」
「それでニリーグになってなの」
「何であまり優勝しないんだ」
「だから殆どでしょ」
「五月蠅い、物干し竿バットで尻バットするぞ」
やしゃ孫に怒って返した。
「全く、どうして阪神は優勝せんのだ」
「そりゃあれでしょ」
黒羽は自宅でデイリーの試合結果を観つつ怒るひいひい祖父ちゃんに答えた。
「打線弱いし変な時にエラー出るし」
「それでか」
「そうよ、だからよ」
それでというのだ。
「ここぞという時によ」
「勝てんか」
「そうよ」
こう言うのだった。
「一目瞭然じゃない」
「一目瞭然か」
「どう見てもね」
「全く、ふざけたことだ」
「ふざけてなくて現実でしょ」
「暗黒時代を乗り切ってもあまり、だからな」
「三十三対四ってあったわね」
黒羽
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