第二部 1978年
ミンスクへ
褐色の野獣
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この男は、ドイツ民主共和国の国家指導者である国家評議会議長であり、社会主義統一党書記長を兼務している人物でもある
「つまり我々は、既に、その男と接触していたと言う事かね」
「小職も、KGB(国家保安委員会)に問い合わせた所、同様の見解を得ました」
『KGB』との言葉を聞いて、男の目が鋭くなる
「では、私が直々に、同志ベルンハルト中尉を宮殿に呼ぼう。
君達は、引き続き、その大型戦術機の衛士の内偵を続けよ……」
机の上に有る、《casino》と書かれたタバコの箱を引き寄せて、掴む
中から、一本取りだして、火を点ける
深く吸うと、溜息を吐き出すような勢いで紫煙を燻らせる
「これは、とんでもないことになったぞ……。
ご苦労であった、同志シュミット将軍。
君は、下がり給え。
後は、評議会で、どうにかすべき話だ……」
議長は、立ち上がると深夜の執務室の窓を開ける
遠くから、車両の行きかう音が微かに聞こえる
宵の街に響く音は、軍関係であろうか
昼夜問わずパレオロゴス作戦の準備をしていると、聞く
シュミットは、内心馬鹿々々しく思ったが、その場では顔には出さなかった
部屋を後にすると、静かに苦笑した
アスクマン少佐は、西側から大型戦術機の情報、つまりゼオライマーの秘密の一部を手に入れた
憎きユルゲン・ベルンハルト空軍中尉の妹、アイリスディーナ・ベルンハルト
彼女を、文字通り西側に《売り飛ばす》事によって、その秘密を我が物としたのだ
彼は、ほくそ笑んだ
女一人を、西の社会に貢物と出す確約をする代わりに、ソ連KGBやGRU(赤軍総参謀本部)が最も欲した秘密情報を得る
敵対する《モスクワ》一派を出し抜き、優位に立つ
無論、表立って敵対者を作るのを避けるために、上司のシュミットには一応、明かした
其れより先に、議長と大臣には私信を送る形で報告済み
今頃、それを知らぬ間抜けな上司が、《献言》しに行っているのであろう
その様な事を思いながら、味わう嘉醸の格別さは表現できない
薬湯に浸りながら、ガラス細工の施された杯を持ち上げる
自然と笑みが浮かぶ
奴等に先んじて、その《ゼオライマー》パイロットと接触してみるのも一策であろう
杯を置き、湯舟より立ち上がる
姿見鏡の前に立ち、自らの裸体をまじまじと眺める
細く痩せてはいるが、筋肉はまだ残っている
若かりし頃よりは衰えたとはいえ、小娘などを簡単に捻って屈せるであろう
かのベルンハルトの妹、アイリスディーナや、その恋人、ベアトリクスを辱める様を思い浮かべる
「実に愉快」
ふと、独り言を言う
寝台の上では、バスローブ姿で横になっている愛人が待っているであろう事を思い起こす
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