第二部 1978年
ミンスクへ
褐色の野獣
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持って下がった
山高帽の男が、ジュラルミン製の大型カバンを両手で抱えて、小姓と思しき男に渡す
一連の作業を黙って見ていたトレンチコート姿の男は、動き出す
車の前に立つ百姓に、一礼をした後、懐中に手を入れ、名刺を差し出す
百姓は、名刺を見ると、こう応じた
「ほう、大空寺物産とは。
それなりの企業ではありませんか」
男は、中折帽のクラウンを持ち上げ、挨拶する
「申し遅れましたが、私は、そこの西ドイツ支社にこの度転勤して参りました。
《鎌田》というものです」
懐中より、化粧箱を取り出す
「どうか、お近づきの印として、お納めください」
百姓は、受け取るなり、中を改める
そして時計のバンドを持ち、裏に書かれた銘鈑を確かめる
「初めて会う方から、斯様な高価なものを頂いては……」
百姓は、彼からの贈答品を後ろに立つ小男に渡すと、代わりにファイルを受け取った
「代わりになるか、解りませぬが、貴方方が欲しがった《目録》で御座います」
トレンチコート姿の男は、ファイルを受け取った後、一瞬顔色が変わった
男は思った
これが、悪名高い保安省の《個人情報》ファイル
聞き及んではいたが、政府に不都合な人間や移住希望者、危険思想に感化された人物、等の《監視》を通じ、情報を収集しているとの噂は真実であった事に、今更ながら驚いていた
男が出した資料を、改めて見る
付箋が付いているページに載る人物は、年の頃は、18歳から20歳の間と言ったところであった……
「まあ、私なりの誠意に御座います。
どうか、良れば、受け取って頂ければ幸いです」
シルクハットの紳士が告げる
「君なりの、恭順の意かね……」
百姓は不敵の笑みを浮かべる
「端的に申し上げましょう。
万が一の際、西に下る保険に御座います。
もし宜しければ……」
婉曲な表現で、告げる
彼は暗に、貢物として差し出す様な事を示した
紳士は、マントを押し上げ、腕を組む
「何ゆえに」
百姓は、皮手袋越しに、右手で顎を撫でる
「《我が同志》の……」
薄ら笑いを浮かべながら、続ける
「いや、知人の妹なのです。
彼女の兄の頼みもあって、せめて彼女だけ西に逃してほしい、との考えて居ります」
紳士は、トレンチコート姿の男からファイルを取り上げると、付箋があるページまで捲る
暫し凝視した後、答える
「田舎百姓とは言え、慣れぬ《頼み事》などすべきではない」
冷笑が響き渡る
「田舎者故に、西の事情を知りませぬ無作法、お許しください」
男に向かって百姓は頭を下げる
その際、彼に気付かれぬよう、舌を出す
紳士は、百姓の姿を見て、こう応じた
「相
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