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渦巻く滄海 紅き空 【下】
五十七 死者の生還
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ばれる男らしく冷笑を浮かべる霧隠れの鬼人を前にして、【根】の忍び達は気圧される。
ほんの一瞬の隙。
だが鬼人にはそれで事足りた。


「隙を見せるなんざ、随分余裕じゃねぇか…──【水遁・大瀑布の術】!!」

刹那、再不斬の周囲に水円が迸る。
円から打ち上げられた多量の水が津波となって【根】の忍び達へ押し迫った。

波に圧し潰されかけ、流されるのを耐えていた忍び達の視界が不明慮なものとなる。
大波のせいじゃない。
いつの間に印を結んだのか。
【水遁・大瀑布の術】と共に仕掛けた【霧隠れの術】により、濃霧が立ち込めている。
その霧の中に、再不斬の姿はとっくに掻き消されていた。



「てめぇらの主人に伝えろ」

姿こそ見えないものの、深い霧の中、声だけが響き渡る。


「俺はてめぇが無断で拝借したもんを返してもらっただけだ。追いたきゃ追ってきな。その時は今までてめぇが抱え込んできた胸糞悪い秘密を、てめぇの部下に全部ぶちまけてもらうがな」

霧隠れの鬼人の声音が、濃霧に轟く。

どこから聞こえてくるのか。どの方角にいるのか。
方向が掴めない。

だが相手の居所よりも、自分達の主であるダンゾウの抱える秘密とやらに、【根】の忍び達は困惑した。

侵入者を追ってきただけで再不斬が何故、【根】の本拠地にわざわざ乗り込んできたのか、彼らは知らないのだ。
ダンゾウが鬼灯満月を監禁していた事実など知り得ぬ【根】の忍び達は、再不斬の言葉の真意を測りかねていた。


「火影直々の依頼もあるんでな。こんな里、とっとと抜けさせてもらおう…追ってくるのは構わねぇが、当然、殺される覚悟あってのことだろうなァ」

既に再不斬本体は、五代目火影の依頼である『暁』の不死コンビたる角都&飛段のどちらかと交戦している。
が、そうとは言わず、あくまでも火影自らが自分に依頼をしてきたことを強調して、再不斬は嘲笑った。

兼ねてより火影の椅子を望むダンゾウをわざと煽るような言付けをあえて投げてから、再不斬は印を切る。途端、その身がバシャっと崩れた。

水分身であるが故、ただの水に戻った再不斬は【水遁・大瀑布の術】で引き起こした多量の水へ滴下する。水の一部となった再不斬に、【根】の忍び達は気づかない。
その上、この霧だ。

姿形、気配でさえ消えてしまった鬼人に、自分達の包囲網から抜け出したのだ、彼らは確信する。
つい寸前まで対峙していた相手の正体が水分身だと、冷静さを欠いた【根】の忍び達の脳裏には微塵も閃かなかった。

取り囲んでいた自分達【根】から易々と逃げ出した再不斬の行く先を里外だと判断する。
急ぎ、主のもとへ駆け参じようと、ダンゾウの配下である【根】の忍び達は、もはや泉と化した地を蹴った。



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