暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
ミンスクへ
青天の霹靂
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
度をして、トルコ支局より同地に入る
薄汚れた茶色の綿入服(テログレイカ)を着て、耳付防寒帽(ウシャンカ)を被り、その惨状(さんじょう)を見つめる
「カンボジア戦線でも、これほどの地獄は見た事は無いぞ……」
脇に居る着古しの両前(ダブル)合わせの外套の男の方を向く
広いつばの中折れ帽を被り、フィルター付きタバコを吹かしながら、彼に応じる
「全くだ……。10年前の新春(テト)攻勢の際が極楽に思える。
順化(フエ)市中の包囲戦で匪賊(ゲリラ)狩りをした時よりも酷い」
男は懐中より革で包まれたアルミ製の水筒(スキットル)を取り出す
キャップをひねり、開けると彼に差し出す
「一杯やれよ。少しは楽になる」
彼は、男より水筒を取ると中にある蒸留酒を味わった
芳醇(ほうじゅん)な香りと味が彼の五感を通して脳に伝わる
その一杯で居心地の悪い現実から逃げようとしたのだ
 
 カメラを持つ手が止まり、男は言葉少なに語る
「この仕打ちはあるまいよ……」

怪物は、市中で暴虐の限りを尽くし、無辜(むこ)の市民を蹂躙(じゅうりん)し、そして(もてあそ)んで殺した
彼等の足元には、遺体が複数転がる
およそ確認できるだけで、120体を下らない数……
恐らく生きた(まま)(ほふ)られたのであろう
静かに心の中で、神仏に冥福(めいふく)を祈った



場所は国家保安省本部の会議室
一人の男が、数名の男たちを前にして冷笑(れいしょう)する
《褐色の野獣》と称される保安省少佐はソ連の悲劇を本心から喜んだ
手にした報告書には、数日前にあったソ連西部での惨事(さんじ)が記されていた
「これで、私に有利な舞台がそろったと言う事だよ。
あとは役者の配置を待つばかりだ」
若い金髪の少尉が、その優男に問う
「ベルンハルト達は如何(いかが)(いた)しましょうか、同志少佐」

「何、3人を捕まえてきて、私が代わる代わる遊んでやっても良い……」
暗に男女を問わず(はずかし)めることを匂わせる
その様な態度から彼は省内外から倒錯(とうさく)者として見られていた
最も当人に至っては馬耳東風(ばじとうふう)(ごと)く無視していた 

 小柄な少尉は、再び問うた
「同志少佐、ボンの兵隊共にバラバラにして売り渡すのは如何でしょうか」
彼に対して、一人づつ人質として売り払うことを提案したのだ
「君も中々の 嗜虐的性向(サディスティック)な事を言うではないか……」
男の顔が(ほころ)
「貴方様の御仕込(おしこ)みで、この様な姿になりました故」
室内に男たちの高笑いが反響する
 
 彼は机の下から醸造酒(ワイン)を取り出す
「これは安酒ではあるが、前祝だ。
景気づけに一杯やろうではないか」
1977年のボジョレー
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ