第二部 1978年
ミンスクへ
青天の霹靂
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度をして、トルコ支局より同地に入る
薄汚れた茶色の綿入服を着て、耳付防寒帽を被り、その惨状を見つめる
「カンボジア戦線でも、これほどの地獄は見た事は無いぞ……」
脇に居る着古しの両前合わせの外套の男の方を向く
広いつばの中折れ帽を被り、フィルター付きタバコを吹かしながら、彼に応じる
「全くだ……。10年前の新春攻勢の際が極楽に思える。
順化市中の包囲戦で匪賊狩りをした時よりも酷い」
男は懐中より革で包まれたアルミ製の水筒を取り出す
キャップをひねり、開けると彼に差し出す
「一杯やれよ。少しは楽になる」
彼は、男より水筒を取ると中にある蒸留酒を味わった
芳醇な香りと味が彼の五感を通して脳に伝わる
その一杯で居心地の悪い現実から逃げようとしたのだ
カメラを持つ手が止まり、男は言葉少なに語る
「この仕打ちはあるまいよ……」
怪物は、市中で暴虐の限りを尽くし、無辜の市民を蹂躙し、そして弄んで殺した
彼等の足元には、遺体が複数転がる
およそ確認できるだけで、120体を下らない数……
恐らく生きた侭、屠られたのであろう
静かに心の中で、神仏に冥福を祈った
場所は国家保安省本部の会議室
一人の男が、数名の男たちを前にして冷笑する
《褐色の野獣》と称される保安省少佐はソ連の悲劇を本心から喜んだ
手にした報告書には、数日前にあったソ連西部での惨事が記されていた
「これで、私に有利な舞台がそろったと言う事だよ。
あとは役者の配置を待つばかりだ」
若い金髪の少尉が、その優男に問う
「ベルンハルト達は如何致しましょうか、同志少佐」
「何、3人を捕まえてきて、私が代わる代わる遊んでやっても良い……」
暗に男女を問わず辱めることを匂わせる
その様な態度から彼は省内外から倒錯者として見られていた
最も当人に至っては馬耳東風が如く無視していた
小柄な少尉は、再び問うた
「同志少佐、ボンの兵隊共にバラバラにして売り渡すのは如何でしょうか」
彼に対して、一人づつ人質として売り払うことを提案したのだ
「君も中々の 嗜虐的性向な事を言うではないか……」
男の顔が綻ぶ
「貴方様の御仕込みで、この様な姿になりました故」
室内に男たちの高笑いが反響する
彼は机の下から醸造酒を取り出す
「これは安酒ではあるが、前祝だ。
景気づけに一杯やろうではないか」
1977年のボジョレー
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