ベトンの棺
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からな。
しかし、どうやってトーチカに近づくかが問題だった。なにせ敵さんは鉄壁の守りの中、ただずっと撃っていればいいんだから。こっちは撃たれれば撃たれただけ傷を負い、死んでしまう。
もちろん南京前には、トーチカだけではなく、普通の兵士も沢山いた。
激しい戦いだった。
支那軍…中国軍のことだ。奴らからの銃声は昼も夜もなく鳴り続き、食料もとっくに底をついていた。味方も敵も、ばたばたと死んでいった。
それに、戦争に惨いも酷いもないもんだが、支那軍には督戦隊というものもいた。
自分は戦わず、ただ逃げようとする自国の兵を殺すための兵士だ。
逃げる兵は狙い易い。怯えて逃げることに集中してしまうから。それを見てこちらが狙いを定めていると、撃つ前に、督戦隊にダーンとやられてぱたりと倒れる。日本軍はみんな呆気にとられていた。士気に関わるのはわかるが、そうは言っても人間だ。情がないわけじゃない、その筈なんだが…儂は底冷えする思いだった。人間を悪魔に変える、これが戦争かと。
支那軍は秩序も酷くて…進軍していく中で、おまえたちには聞かせられないような酷いものも沢山見てきた。本当に…惨いことだ。
苦心の末、支那軍に撤退命令が出、やっと南京入場を果たせた。
おまえたち、「南京大虐殺」というものをこれから教科書で習うかも知れんが、あれは嘘だ。日本軍は誰も一般市民を虐殺などして居らん。そんなことをしたら軍法会議ものだ。なにより、実際に南京にいた儂が言うんだから間違いのあろう筈がない。
人は死んだ。確かに沢山死んだ。日本軍は支那軍を殺した。けれど、支那軍も沢山日本軍を殺した。それが戦争だ。日本が悪いのか。中国が悪いのか。いやきっと、戦争が悪いのだ。勝てば官軍、負ければ賊軍。買った方が正義になってしまう。中国が「南京大虐殺」なんてこと言いだしたのも、勝ったアメリカが原爆を落として大量虐殺をしたことを上塗りする、日本軍の「非情な大量虐殺」の話がどうしても必要だっただけだ。支那軍のしたことを、日本軍に被せただけだ。儂は死んだ戦友のことを思うと腹立たしくて空しいが、一番大事なのは、二度と、そう二度とこんなことを繰り返してはならないと言うことだ。
おお、すまなかった。おまえたちには少し難しかったか。
もう少しだけ、聞いててくれんか。
儂はな、日本から離れた南京、そこで戦争を見た。
戦争のなんたるかを見たのだ。
数日前は唸りをあげて日本軍を苦しめていた筈の、トーチカも全て沈黙していた。
トーチカの中に入ろう
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