ベトンの棺
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戦った。
正直にいえばな、じいちゃんはあの時のことはあまり思い出したくない。
思い出したくない位、悲しい世界だった。
戦うってことは、勝ち負けを決めなきゃいかんと言うことだ。じゃあ何で勝ち負けを決めるか。
死体の数だ。
まいったと言わせるまで、相手をたくさん殺した方が勝ちなんだ。
戦争は、そういうことだ。綺麗なものなんてなんもない。
じいちゃんも、ひとを殺した。
嘘は言わん。じいちゃんも沢山殺した。じいちゃんが生きてるってことは、そのぶん生きられなかった人間がいるってことなんだ。
おまえたちももう大きくなったから、じいちゃんも正直に言う。誤魔化したりはせん。じいちゃんだけじゃなく、戦争で前線にいった兵隊は、みんな人を殺してる。「殺した」とまわりに、言っているか言っていないかの違いだけなんだ。
兵隊は、殺した人の命を背負って生きていかなきゃならん。死んでいった戦友の命も。
じいちゃんも、その時は鬼だった。
日本を守る、なんて格好いいことを思っていたが、実際に行って思うのは、今自分がここで引いたら、家族もみんな殺されてしまうと言うことだった。
もちろんじいちゃん自身も死にたくはない。でももう駄目だと思うことも何度もあった。周りもみんな死んでいった。そうなってくると、どんなに安全なところにいても死ぬ時は死ぬし、どんなに危険なところでも死なないときは死なない。生死は時の運、どうせ死ぬなら、一人でも多く敵を道連れにして死にたいと思った。誰だって人なんて殺したくない。逃げ出したいと思うこともしょっちゅうだ。でも逃げられなかった。前線で戦っている兵士がみんな逃げたら、敵は女子供がいる日本本土に押し寄せる。それだけは絶対に許せなかった。ばぁちゃんのため、家族の為、村の皆の為、天皇陛下の御為、日本の為…それらみんなまとめて、自分の為なんだ。日本人は自分の為には死ねないが、大切な誰かのためなら死ねるんだ。
南京…といってもおまえたちにはわからんだろうが、当時の中華民国の首都だ。そこを攻めた時だ。南京の前に、トーチカと言って、ベトンで出来た要塞に銃眼と言う穴があいているものがあった。中に人が入って、その銃眼から鉄砲を覗かせて撃ち敵を撃退すると言うものだ。お、ベトンもわからんか。今は…コンクリートと言うんだったか。
こいつが厄介な代物で、いくらこっちがトーチカに向けて弾を撃ってもベトンだから全く通用しない。誰かがこっそり近寄り、銃眼の小さな穴から、手榴弾を投げ込むよりほかに手がない。手榴弾と言うのは…おおそれは知っているのか。男の子だ
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