第116話『夜の魔術師』
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「降参」なんて文字は終夜の辞書には載っていない。そもそも後輩が必死に繋いでくれたバトンを、どうして途中で捨てることができようか。いや、できる訳がない。だって──
「俺が魔術部の部長なんでね! "冥々雷砲"!」
いつものように片手ではなく、両手で組んだ指鉄砲。その指先には今まで以上の黒雷が集中していく。
──策が尽きたのなら、後は力によるゴリ押しのみ。
指先から放たれた黒雷の塊は風を切りながら直進する。今まで見たどの攻撃よりも苛烈で荒々しい。まさに力業だ。
「くっ……!」
突然の狙撃に月は避け切れず、真っ向から攻撃を受けた。光を腕に集中させて、歯を食いしばりながら防いでいる。
そして雷が爆ぜ、フィールドを破壊しながら土煙が覆い尽くした。
『なんという威力でしょう! 星野選手の安否や如何に?!』
終夜の技のあまりの威力に、会場中でどよめきが起こる。
しかし煙で隠れてはいるが、月がフィールド外に吹き飛んだ様子はない。耐えたか、それとも倒れたか。煙が晴れるまで結果はわからない。
「──いやぁ、危ない危ない」
「……やっぱり無事でしたか」
土煙が晴れると、飄々とした様子の月がいた。苦しむ様子もなく、ちゃんとフィールド上に足をつけている。あれだけの攻撃を受けて、平気だったということだ。
「いやいや全然無事じゃないよ。普通に痛かったよ」
「"星雲ベール"でしたっけ? ホントとんでもない防御力ですね、それ」
「お、よく覚えてんじゃん。私の守りはそう簡単に突破できないよ〜」
「全く、勘弁してくださいって」
月の周囲に浮かぶ小さな光。実はこれらは彼女の魔術の一部であり、魔術的な防御に一役買っていたのだ。それは終夜の大技をも防ぎ切るほど。
ヘラヘラとした口調で話しているが、終夜の内心は全く穏やかではない。今の攻撃でも倒れないとなると、本当に月を倒す手段が限られてくるからだ。
「ま、今のはちょーっと危なかったし、そろそろ終わりにするよ」
そう不敵に笑う月が新たに星座を描き始める。それは冬になると誰しもが探すあの星座。その正体だけは学がなくてもすぐにわかった。
「オリオン座……!」
「出てきて、"オリオン"!」
月が元気よく唱えると、その後ろに見上げる程に大きい光の巨人が現れたのだった。
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