第116話『夜の魔術師』
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いくら1匹が弱くても、そんな数に特攻されては、物量的に押し負けるに決まっている。
現に、黒雷の帳に触れた魚たちがバチバチと音を立てて弾けていくが、終夜の身体はジリジリと後ろに押されていた。
「やっぱり防ぎ切るのは厳しいか。なら……!」
「……っ! まさか!」
突然、終夜が帳を被ってうつ伏せになった。それを見て、月は何かを思い出したかのように顔色を変え、すぐさま防御姿勢を取る。
「"大放電"!」
「くっ……!」
フィールドの上にダンゴムシのように突っ伏す終夜から、際限なく黒雷が迸った。何を狙う訳でもなく、ただ無差別な放電。仲間がいる時に使えば同士討ち必至だが、タイマンや対集団戦の時にはこれ以上ない力を発揮する。
実際、飛来する魚の群れは粗方消し飛び、月も不規則に飛んでくる雷を防ぐのに集中していた。
しかし、これでは終夜が防戦一方な状況は変わらない。月ならばその内、この放電を凌ぎつつ魚群を創り出し始める。終夜のように器用な人だから、どんな状況にも順応する速度が早いのだ。そうなれば、"大放電"はただの魔力の浪費になってしまう。
「だからこれはブラフ」
月が順応するまでの時間。その時間だけは彼女の方が防戦一方であり、終夜から気が少しだけ逸れる。
──だから、その瞬間に彼女の隙だらけの背後に回り込めるのだ。
「──っ!」
突如として人の気配を感じて月が振り返ると、なんと背後から黒雷を腕に纏った終夜が飛びかかってきていた。
一体いつの間に移動したのか。この放電の元凶である帳はまだフィールドに残っているというのに。
……いや、考えるのは後。なんとか反応は間に合ったのだ。まずはこの奇襲を凌がなければならない。
そのため月は受け止めようとして──即座に思い直して横に跳ぶ。
おかげで突き出した腕が僅かに届かず空を切ったが、終夜は身をひねって華麗に着地した。
「いけないいけない。危うく麻痺するところだった」
「不意討ちに気づかれた挙句にそこまで考えが至られちゃお手上げですよ」
月が冷や汗を拭いながらそう言うと、終夜は苦笑いで肩をすくめる。
月の言う通り、もしあそこで彼女が受け止める選択をしていれば、終夜はここぞとばかりに麻痺を狙っていた。いくら実力に差があっても、身動きが取れない状況になればさすがに戦況が傾く。
だが、そんな作戦も頓挫してしまった。せっかく二の矢まで用意していたというのに、月には効果がない。彼女にとって初見である雷に紛れた高速移動も、もう通用しないだろう。
「こりゃマジで手がないぞ……」
「あんたがあたしに勝つなんて百年早いの。ここらで降参しとく?」
「は、しませんよ!」
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