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髭を剃れ
第三章

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「その分涼しいな」
「確かに」
「それで我等も楽です」
「髭があればこうはいきません」
「かなり楽です」
「まことに」
「対するペルシャの者達は生やしている」
 その髭をというのだ。
「そして暑い」
「その分汗をかく」
「苦しいですね」
「特に戦の場では」
「必死に身体を動かしますから」
「余計にですね」
「そうだ、その違いがだ」 
 まさにというのだ。
「戦を分ける要素にもなる」
「こちらが楽で相手は苦しい」
「髭のあるなしで」
「それで、ですね」
「違ってきますね」
「少しでも有利な状況にしておく」 
 アレクサンドロスは悠然と笑って話した。
「そうして戦うものだな」
「はい、それがです」
「まさに戦です」
「そして勝つものです」
「その様にして」
「だからだ」
 アレクサンドロスは周りの将兵達に話した。
「余は皆に髭を剃らせたのだ」
「髭を掴まれて引き寄せられたり倒されない」
「そして涼しくする」
「その為にですね」
「その様にしたのですね」
「そうだ、ではこのまま進んでいく」
 こう言ってさらにだった。
 アレクンサンドロスは軍を進ませ遂にアケメネス朝ペルシャを倒しインドにも攻め込みインダス川西岸まで至った。
 彼が率いるマケドニア軍の強さは歴史に残っている、重装騎兵と重装歩兵を合わせて用い天才と言うべき采配はつとに知られているが自軍に髭を剃らせていたことも大きかったことはあまり知られていない、だがそのことは紛れもない事実である。そして。
 十九世紀のことだ、ナポレオンは自軍の兵達に告げた。
「皆髭を生やせ」
「髭をですか」
「それをですか」
「そうだ、生やすとだ」 
 そうすればというのだ。
「威圧感があるな」
「はい、確かに」
「髭を生やしていますと」
「威圧感が出ます」
「怖そうです」
「軍の兵全員がそうだとな」
 髭を生やしていると、というのだ。
「敵軍も威圧される、だからな」
「その様にしてですね」
「戦いますね」
「そうしますね」
「そうだ、そうしていく」 
 こう言ってだった、彼は自軍の兵達に髭を生やさせた。アレクンサンドロスは逸らせたがナポレオンはそうさせた。髭もそれぞれである。


髭を剃れ   完


               2021・9・16
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