第三章
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「あの一際大きな鼠は」
「ですか、しかしどうすべきか」
「これだけの数の鼠何ともなりませぬ」
「勿論あ頼豪殿の鼠も」
「僧兵が幾らいてもどうにもなりませぬ」
「人は襲いませぬが」
鼠達はそれはしなかった、ただ山の仏像や仏具や経典を荒らすだけだ。幸いにしてそれはなかった。
だが寺を荒らされていることは事実、それでだった。
「どうすべきか」
「果たしてここは」
「あの鼠達をどうすべきか」
「鼠には猫でありまする」
先程一際大きな鼠を頼豪だと見抜いた僧侶が言ってきた。
「それ故にここは猫を出しましょう」
「そうすべきですか」
「ではです」
「すぐに猫を出しましょう」
「そうしましょうぞ」
他の僧達も頷いてだった。
そのうえで多くの猫を用意した、するとだった。
さしもの鼠達も逃げ出した、こうして難は去り頼豪が変じたと思われていた大鼠もであった。
彼を見抜いた高僧が陰陽道を使って呼び出した大きな猫、異朝にいるという虎の様な大きさのそれを見ると諦めて鼠達を連れて逃げ去った、だが寺を去る時にだった。
実に忌々し気に寺を見ていた、その顔と目を見て寺の者達は言った。
「これはまた機会があれば」
「その時はですな」
「またこの様なことが起こりますな」
「左様ですな」
「ではです」
ここでまた高僧が言った。
「社を築いて頼豪殿の怨霊を鎮めましょう」
「それがいいですな」
「この度は」
「さもないとまたこうしたことが起こって」
「大変なことになりますな」
他の僧達もまた頷いた、そしてだった。
まずは頼豪達を退けた猫を祀った社を築き猫の宮と名付けた、そうして。
頼豪の怨念を鎮める為に東坂本に彼を神として祀った社を築いた、これは鼠の秀倉と呼ばれる様になった。
まあ園城寺でも彼の怨霊を鎮める鼠の宮という祠が築かれた、以後比叡山に鼠の群れが出ることはなくなった。帝はことが全て終わってから言われた。
「迂闊に何でもなぞと言うものではないな」
「はい、それが怨念にもつながりますし」
「迂闊には言えませぬな」
「そうしたことは」
「特に朕の様な者はな」
帝、天下の君であられるならというのだ。
「尚更な」
「はい、こうなることもあり申す」
「そのことを考えますと」
「やはり」
「このこと本朝の教えとしたい」
沈痛な声で言われた、そして以後帝はお言葉をこれまで以上に慎重に選ばれる様になられたという。
この話は太平記等にある、嘘か真かわからない。だがそれでも頼豪が戒壇を求めてそれが適わなず憤死したことは歴史にある、このことを思うとあながち物語であるとは言えない、宮や祠があることが何よりの証と言え様か。まことに人の心程恐ろしいものはない。
猫の宮 完
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