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豚女房
第三章
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 その顔は豚のものになった、これには重太の子供達も孫達も曾孫達も驚いた。
「豚!?」
「豚じゃないか」
「まさか愛花さんは豚だったのか」
「まさかと思うが」
「いや、これはあります」
 ここで彼等と共に愛花を見送りその後の葬式も仕切る僧侶が言ってきた。
「豚が人になることは」
「そうなんですか」
「豚が人になるんですか」
「そんなことがあるんですか」
「何十年も生きれば」
 そうなればというのだ。
「そうした力を持つ様になり」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「人の姿になってですか」
「その中で生きるのですか」
「愛花さんはそうだったのです」
 まさに何十年も生きた豚が人になっていたというのだ。
「そして今です」
「世を去って」
「そして本来の姿に戻ったんですか」
「豚の姿に」
「そういえば」
「ずっと草履を脱がなかったのは」
「それはです」
 僧侶はその問いにも答えた。
「豚の蹄です」
「ああ、蹄ですか」
「豚の蹄は草履と同じですね」
「その形はそっくりです」
「あの草履は蹄でしたか」
「そうだったんですね」
「そうです」
 まさにというのだ。
「そうでした」
「だから脱がなかったんですね」
「いつも草履を履いていたんですね」
「蹄だったからですか」
「ずっとだったんですね」
「蹄は身体の一部です」
 豚にとってそうだというのだ。
「ですから」
「脱がない」
「もっと言えば脱げない」
「そういうことでしたか」
「そうでした」 
 こう彼等に話した。
「ご主人がそれでもいいと言われたのは察せられたのでしょう」
「愛花さんが実は豚だった」
「そのことをですか」
「だからですか」
「はい」
 まさにというのだ。
「草履を脱がずともです」
「いいとしていたんですか」
「ずっと」
「爪なので脱げないことがわかっていたので」
「その為に」
「そうでした、幾ら上手に化けていても」
 それでもというのだ。
「やはり化けきれないところはあります」
「それが爪ですか」
「豚が化けた場合は」
「そうなのですか」
「そういうことです、ですがもうです」
 まさにというのだ。
「死んでしまったので」
「それで、ですか」
「変化が解けて」
「そのうえで」
「こうなりました、豚ですがずっと人として暮らしていたので」
 それでというのだ。
「ここは丁寧に弔いましょう」
「人として」
「そうしますか」
「祖父ちゃんの家族だったの」
「はい、そうしてやりましょう」
 こう言ってだった。
 愛花は人として葬られた、そのうえで墓に入った。その隣には重太の墓もあり二人は死んでも夫婦として隣同士であった。沖縄に伝わる古い話である。

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