第一章
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豚女房
沖縄の古い話である、江戸時代の頃の話で名護にだった。
女房に先立たれ息子達も娘達もそれぞれ家を建てて暮らしていて家に一人で暮らしている年寄りがいた、名前は重太といった。
髪の毛はすっかり白くなって顔も皺だらけで背中も丸くなっている、長年連れ添った女房は先に旅立ちもう古稀も過ぎて後は思い残すところはなかった。
それでだ、子供達は孫達にも笑って言った。
「もう思い残すことはない、この家も畑もな」
「好きにしていいか」
「そうだっていうんだね」
「そうだ、お前達の誰かが住んでも人にやってもいい」
こう言うのだった。
「わしはもうな」
「充分に生きたからか」
「おっかさんも死んだし」
「それでか」
「もう後は」
「七十も過ぎたしな」
長く生きたからだというのだ、古稀と言われるまでに。
「ならいい、だからな」
「後はか」
「死んだ後は」
「どうしてもいいのか」
「この家も畑も」
「そうしろ、もう女房を迎えることもないしな」
これもないというのだ。
「だからな」
「もう後はどうでもいいか」
「充分生きたから」
「そう言うんだな」
「それでなのね」
「ここまで来て欲なんかあるか」
穏やかに笑ってだった。
重太は畑仕事をしながら今の一生を終えることを待っていた、だがそんな彼のところにある嵐の日にだった。
若く美しい女が入って来て言ってきた。
「あの、よかったら」
「どうしたんだ」
「嵐に遭いまして」
それでというのだ。
「思わずここに入ったのですが」
「それで嵐が収まるまでか」
「少しの間ここにいていいでしょうか」
「そうしたいならしたらいい」
子供や孫達だけでなくその女にも言った、二十歳位で黒髪も目鼻立ちも随分と艶やかな女である。立ち居振る舞いもだ。
「嵐はどうにもならないからな」
「それでは」
女は重太の言葉を受けてだった。
暫く家にいて嵐が収まると彼に礼を言って後にした、この時からだった。
重太は女と知り合い何時しか女が気に入り彼女に尋ねた。
「あんた旦那さんはいないか」
「はい、いません」
女はすぐに答えた。
「一人です」
「そして家もないか」
「実は」
「そうか、よくそれで生きていられるな」
「野に暮らしていまして」
「それでそうそう生きていられるか」
重太は女の身になって述べた。
「そんな筈がない」
「そう言われますか」
「それならだ」
重太はさらに言った。
「あんたここで住むか」
「このお家で、ですか」
「そうしたらいい、歳だから後はこの生が終わるだけだと思っていたが」
それがというのだ。
「変わった、あんたと一緒に暮らそう」
「それは」
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