第一章
[2]次話
着飾る理由
渡辺由美は小学校の教師である、彼女の職場は結婚している中年以上の男性か女性そして生徒である子供しかいない。
勤務態度は真面目で公平で優しく教育熱心な先生として知られている、だがその外見はどういったものかというと、
度のある丸眼鏡でぼさぼさの長い黒髪に野暮ったいくたびれた上下共黒のジャージといったものだ。メイクは一切していない。
登下校もそうした格好で車で通っているので通勤中も問題なかった、誰もが彼女を見て美人とは思わなかった。
それで校長の津田宗男、初老で髪の毛がかなりなくなっている丸眼鏡の彼も由美に時々注意をした。
「渡辺先生、少しは身だしなみに気をつけた方がいいです」
「刺激的な格好ではないですが」
由美はこう答えた。
「別に」
「いや、そうじゃなくてですね」
「動きやすい恰好ですよ」
「それはそうだけれどです」
今も黒い上下のジャージ姿の彼女を前にして話した。
「あまりにも飾らなさ過ぎます」
「お洒落でないですか」
「確かに刺激的ではないですが」
むしろ色気の欠片も感じない、校長はこう言いたかった。
「よくありません」
「教育上問題はないですが」
「それはそうですがお洒落は」
「仕事にはこれが一番いいので」
この服装がというのだ。
「そういうことでいきます」
「何も問題ないですか」
「露出がないからいいですね」
あくまでこう言ってだった。
由美は学校ではいつもジャージにノーメイクだった、まさに色気なぞ何処にもないといった格好だった。
だがそんな彼女も友人に誘われて外出するとだった。
「また今日も決めたわね」
「はい」
見れば今の由美の姿は。
黒髪はシャワーを浴びてリンスとコンディショナーもしてから櫛で整えて顔もメイクをしてコンタクトを入れてだった。
コロンを付けたうえで着飾っていた、かなり短い黒のタイトスカートにストッキング、それに胸元がやや開いた白いブラウスにハイヒールといった服装だ。メイクも艶やかなものにしている。
その恰好でだ、由美は言うのだった。
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