前編
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どこからか助けを求める声が聞こえた気がした。
『彼』は立ち止まってあたりを見回してみた。
洞窟の中のような薄暗い空間。しかし光源らしきものも無いのに周囲の様子は不思議とはっきり見える。タルタロスという非現実な場所ならではの奇妙な光景だ。
目に見える範囲に人影は無かった。
近頃、タルタロスに迷い込む人が続出している。これまでも特別課外活動部は行方不明者を何人も探し出し救出してきた。遭難者は発見時には半ば影人間化しており、まともに話すこともできない状態になっている。しかし協力者である警察官の黒沢さんから聞いた話だと、救出された後には目に見えて回復しているらしい。やはり適応者でない人間にとっては、影時間やタルタロスにいること自体が大きな負担となるのだろう。
(もしかすると、またどこかに迷い込んできてしまった人がいるのかもしれない。)
もしそうならば可能な限り救出したいと思った。
「どうしたの?」
『彼』の様子に気づいて、岳羽ゆかり が声をかけてきた。そろそろ影時間も終わりに近づいており、エントランスに戻ろうとしていたところだった。前を歩いていた真田明彦と天田 乾も、その足を止めてこちらを見ている。
「何か聞こえたような気がして・・・。」
『彼』がやや心もとない様子で答えかけたところで、
【ここは・・・どこ・・・。】
と再び呼ぶ声が聞こえた。今度は間違いない。女性の声だった。
「やっぱり聞こえる。誰かが助けを求めてるんだ。」
『彼』の言葉を聞いて3人は顔を見合わせた。
「聞こえましたか?」
小学生の天田が不思議そうな表情で尋ねた。
「いや・・・俺には何も・・・。」
真田も戸惑ったように答える。
「私にも聞こえなかったけど・・・。」と言いかけた ゆかり が、すかさずエントランスでナビゲートしている風花に通信で尋ねた。
「風花? タルタロスに誰か迷い込んでる人がいない?」
『え?・・・えーと・・・私にわかる範囲では・・・今はウチのメンバーしかいないと思う。』
山岸風花が自信無さげに返答してきた。遭難者の捜索では、風花の探知能力が大きな成果を上げている。彼女の探知可能な範囲に人はいないようだ。
「気のせいじゃないのか?」
真田の問いかけには応えず、『彼』はその端正な顔に眉をひそめたまま耳をそばだてていた。残りの3人は困った様な表情を浮かべたまま、その様子を見守っている。
しばらく沈黙が訪れる。
やはり気のせいだったか・・・とあきらめかけた時、【お願い、誰か・・・。】と呼ぶ か細い声がした。
「ほら、やっぱり聞こえる。・・・探しましょう。」
『彼』は顔を上げてきっぱりと言った。
しかし残りの3人にはやはり何も聞こえていなかった。困惑したまま顔を見合わせる。
もともと『彼』はそれほど自己主張の強いタイプではない。今の
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