第一部 1977年
服務 その3
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だ
もし、事故でなく、何か人為的な物であったならば、大変だ
よもや、この件に日本政府が関係しているわけではあるまい
折角、日米合同の研究会が作られ、計画は進んでいる最中
一転して、ミラとの結婚を認めて、日本への帰国を急かす政府の方針が判らない
「何かが起きている」
あまりにも不気味だ
巌谷に話したところで、彼は本音で語ってくれるだろうか
多分、此方の事に気を使わせてしまうだけであろう
彼が思い悩んでいると、声を掛けてきた人物がいた
大使館付武官補佐官の彩峰萩閣陸軍大尉である
彼は、この男に良い印象を憶えなかった
大学教授や政治学者と、論争を挑み、政治的な発言も多い
正義感が強い男ではあるが、軍人としては疑問を感じる行動を行う時がある
ただ、語学の才があり、弁舌爽やかで、同行の青年将校達が彼の周囲に集まってると聞く
その様な男に目を付けられるのは、甚だ迷惑な感じがする
彩峰は、敬礼をすると、軍帽を脱ぎ、椅子に腰かける
ステンレスの灰皿を引き寄せる
内ポケットより、オイルライターとタバコを取り出し、火を点ける
タバコはソフトパックで、銘柄はラッキーストライク(LUCKYSTRIKE)
国粋主義者と噂される彼が、米国タバコを吸うとは……
物珍しさに凝視してしまった
「なあ、篁君、君の話は聞いているよ。
日米親善の為の結婚、悪くはない。
中々、良いお嬢さんじゃないか。
都の年寄り共が、騒ぐかもしれないが、何かあったら俺が手助けしてやるよ」
悠々と紫煙を吐き出しながら、彼は語った
「君の立場は斯衛の派遣技術将校、謂わば陸軍技術本部駐在官に準ずる立場だ。
一挙手一投足が注目の的だ。
それなのに、あの様な美女を本気で愛するとは、中々出来る事ではないよ」
手持無沙汰になった篁は、彼のタバコを拝借した
2本ほど抜き取ると、火を点ける
目を瞑り、深く吸い込んだ後、静かに紫煙を吐き出す
目を見開くと、狐につままれたような彩峰が居た
「タバコを吸うのか。やらないと思ってたんだが」
しばしの沈黙の後、語った
「こういう時には煙草の一つでも吸いたくなりますよ。
フィルター付きは癖が無いですね」
下を向きながら、答える
「まあ、色々あって、タバコを止めてたんですよ」
「大方、あのお嬢さんにでも言われたのか」
「技術職で、火器や燃料を扱うことが多いので。
基本的に火気厳禁で、喫煙所が遠く、足を運ぶのが億劫になってしまいました。
休憩する時間が惜しくて、其の侭……」
そこにマグカップを二つ持った巌谷が来る
彼の方を向いて彩峰が言う
「敬礼は良い。俺の分も用意して呉れ。
コーヒーは嫌だから、コーラか、オレンジジュースにしてくれ」
彼は静かにマグカップを置くと、PX(購買所)の方に向かった様であった
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