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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第七十六話 懺悔
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のチャンスを逃した以上、いずれ自分は彼に殺されるだろうと……」
「……」

必死に驚愕を押さえヤン提督を見た。提督は昏い眼をしている。
「第五艦隊の来援が一時間早ければグリンメルスハウゼン艦隊を殲滅し、逃げ場を失ったミューゼル中将を捕殺できたはずだった。だがそのチャンスを私が潰してしまった」
提督の声は苦みに満ちていた……。

ヴァンフリートの一時間、その意味がようやく分かった。ヴァレンシュタイン提督が何故ヤン提督を非難したかも、そしてヤン提督が何故反論しないのかも……。第六次イゼルローン要塞攻防戦でこちらの作戦を見破ったのはミューゼル中将だった。あの一時間が全てを変えた……。

「ですが、戦争をしている以上、勝つことも有れば負ける事も有ります。いくらなんでも一度の敗戦がきっかけでヴァレンシュタイン中将を殺すなど……」
私の言葉にヤン提督が首を横に振った。

「ヴァンフリートでは彼の副官が戦死している。ミューゼル中将の親友であり分身だそうだ。ミューゼル中将にとって自分は不倶戴天の仇であり帝国を捨てた裏切者、決して自分を許さないだろうと言っていた……」
「……」

「第六次イゼルローン要塞攻略戦ではミューゼル中将がこちらの作戦を見破った。ヴァレンシュタイン中将は要塞に取り残された味方を救うためにロボス元帥を解任した。そして味方を救うために自ら前線に出た。多分、死ぬことも覚悟していただろう、軍法会議も有った……。ミューゼル中将が居なければそんな事をせずに済んだはずだ。何で自分がという気持ちも有っただろう、だがそれでも彼は味方を救うために行動した……。私とはえらい違いだ」
ヤン提督は自らを嘲笑うかのように笑い声を上げた。一頻り笑うと昏い眼で私を見た。

「彼に言われたよ。“貴官らの愚劣さによって私は地獄に落とされた。唯一掴んだ蜘蛛の糸もそこに居るヤン中佐が断ち切った。貴官らは私の死刑執行命令書にサインをしたわけです。これがヴァンフリート星域の会戦の真実ですよ”と……」

溜息が出そうになって慌てて堪えた。何という皮肉だろう。全軍が勝利の喜びに沸く中で最大の功労者が絶望に喘いでいる。先程まで有ったヴァレンシュタイン提督への怒りは消え遣る瀬無さだけが有る。あの一時間をどんな思いで待っていたのか、ミューゼル提督を取り逃がしたと分かった時、どれほどの絶望が彼の心を捉えたのか……。

「……提督の責任ではないでしょう。提督は基地への救援を進言したのです、でも受け入れられなかった。決して味方を見捨てたわけでは……」
続けられなかった。ヤン提督がそうじゃない、という様に首を振っている。口を噤んだ私に提督が視線を向けてきた。何の感情も見えない眼だった。

「あの時、私はもっと強く主張すべきだった。それなのに私は反対されるとあっさり
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