第十七章 それでも時はやさしく微笑む
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……
グレーのスーツ。
内側からはち切れそうなほどに筋肉のみっしり詰まった、大柄な体躯。
オールバックにした髪の毛。
野生的とも知的とも、どちらとも取れる容貌の、男性。
至垂徳柳。
会場へと、入ってきたばかりのようだ。
カズミは、アサキを抱いた腕を解くと、椅子から立ち上がった。
グレーのスーツ、至垂徳柳へと向かった。
なにか一言、いってやる。
そんな、不満と憤りをたっぷり詰め込んだ顔で、睨み付けている。
今回の件について、直接の指示を出した本人かは分からない。
だが、無関係とは思えない。
まったく知らないはずは、ないだろう。
問い詰めようとも、ボロを出すことは決してないだろうが。
それでも、一言、なにかいってやらなければ、気が済まない。
一触即発の気配ぷんぷん漂う、そんな、険しい顔のカズミ。
導火線に火を着けたのは、「ああ、いたの?」といった感じの、飄々というかのんびりとした、至垂の表情であった。
ぶつ
カズミの血管が切れていた。
強く、踏み出し床を踏み付け、怒りの形相で口を開こうとした、その瞬間、
「命を弄んで楽しいか!」
怒鳴り声。
アサキである。
カズミの脇を後ろから抜け、アサキが、至垂へと詰め寄っていたのである。
「魂を、生命を、バカにして楽しいか!」
周囲が、ざわついていた。
敵意を向けられた当の本人は、どこ吹く風であったが。
どこ吹くどころか、このような粛々とした場において、不自然なほどに、楽しげな笑みを浮かべていた。
宣戦布告をした身であるから、底意地の悪さを隠す必要もない。など単純なものかは分からないが、その表情に、アサキはさらにカッとしてしまい、腕を振り上げ、言葉にならない言葉を怒鳴り続けていた。
「やめなさい令堂さん! やめなさい!」
須黒先生が、アサキを背後から羽交い締めていた。
なだめようと、抑えようとされるほど、アサキ猛然と反発。身体をよじり、暴れさせ、身体がままならないまでも視線を、敵意を、恨みを、至垂へと向けた。
恐ろしい顔で、睨み付けていた。
「令堂さん!」
「せ、先生が、先生がっ、一番辛いんじゃないかあ!」
大きな声でそう叫ぶと、アサキは、ぷしゅうと破裂した風船になり、床に縮んで座り込み、大声で泣き始めた。
「なにやら、わたしへの誤解があるようですが……いずれにしても、ここの校長は、生徒にも教師にも、こんなに慕われていたのですね」
グレースーツの大柄な男性は、低いがどことなく女性的な甘い声を出すと、寂しげに、苦笑をした。
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我孫子市下|ケ《げ
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