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俺様勇者と武闘家日記
第2部
エジンベア
いざ、エジンベアへ
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すよ」
 少女は肩から下げていた大きめの鞄から、一冊の本を取り出した。外に持ち歩くには些か厚めだが、私はその表紙に目を奪われた。その本のタイトルに聞き覚えがあったからだ。
「この『勇者物語』の二十三ページ!! ここの挿絵に描かれている勇者様と、ここにいる方の出で立ちがまるで絵本から抜け出したかのようにそっくりなんです!!」
「……は?」
 ぽかんとする衛兵に対し、少女は熱のこもった説明で必死に挿絵の部分を指さしている。確かに彼女の言うとおり、今ユウリが身に着けている服や装備、さらには髪の色まで、まさに彼をモデルにしたのではないかというくらい似ていた。
 そもそも『勇者物語』と言うのは、百人に聞けば九十九人は知っているほど知名度が高い、世界でもっとも有名なおとぎ話だ。はるか昔、世界を壊そうとしている魔王が現れ、勇気ある若者が伝説の生き物ラーミアの力を借り、魔王を倒すという、まるで今のユウリと同じような状況の内容である。
 かくいう私も幼いころ、時折村にやってきていた吟遊詩人や、寝る前に母親から聞いた話で知ったのだが、本という形で見るのは初めてだった。
「つまり、この姿こそが勇者様であるれっきとした証!!何かを見せるまでもないということです!!」
「だ、だが、こいつがこの挿絵を見て真似したかもしれないだろ」
 挿絵を確認した衛兵が、ユウリと見比べつつも負けじと反論する。けれど少女は首を横に振り、
「よく見て下さい! この絵のここの部分、何か気づきませんか?」
 少女が指でトントンととある場所を指さすので、衛兵も一緒になって本をのぞき込む。
 衛兵が本に気を取られている間、少女は視線を本に向けたまま、本を持っていない方の手を鞄に突っ込み、何かを取り出した。そしてそれをそのまま私とユウリに投げつけたではないか。
『!?』
 驚く間もなく、私たちは少女が投げた包みから放たれた細かい粉のようなものを浴びせられた。よく見れば、それは細かくした葉っぱのようだった。そしてそれを浴びた瞬間、私とユウリの姿が見る見るうちに消え始めたではないか。
「おい、何があるんだ? 別におかしなところは見当たらないが……」
「よく見て下さい。この剣の柄の部分……」
 少女と顔を突き合わせているので衛兵はこちらに全く気付かない。もしかしたらこれはチャンスなのでは?
 すると、その様子を背中越しにちらりとみた少女が、声に出さず唇だけを動かして、短く『逃げて』と言い放ったではないか。
 少女の行動に疑問を抱くが、今は余計なことは考えない。それはユウリも同じだった。彼は即座に私の手を取ると、極力足音を立てずその場から逃げ出した。
「あれ!? あいつらがいないぞ!?」
 そのすぐ後で、衛兵が私たちがいないことに気づき声を上げたが、もう遅い。私たちは衛兵の横を通り
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