第二章
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「いなくなってもいいよ」
「いつもそう言ってるけれどね」
「いや、もう間違いないよ」
キクはいつもの穏やかな笑顔で述べた。
「私はいなくなるよ」
「何でそう言えるんだい?」
「仏壇の香炉箱に小さな足跡があったんだ」
「足跡?」
「実は爺さんが亡くなる時にもあったんだ」
その時にもというのだ。
「それがあってすぐにね」
「ひい祖父ちゃんが死んだんだ」
「そう、それでね」
「ひい祖母ちゃんも」
「もうすぐいなくなるよ」
「まさか」
「そのまさかだよ、けれど長く生きてあんたの子供の顔も見たしね」
やしゃ孫のそれもというのだ。
「本当にもう満足だからね」
「それでなんだ」
「これで充分だよ」
こう言ってだった。
キクは笑顔でいた、だがこの時から一月後にだった。
キクは朝家族が起きるとずっと起きてこないので様子を見に行った時に床の中で死んでいた、その顔は穏やかなもので眠っているままだった。
すぐにお通夜とお葬式となってだった。
一家はキクを見送った、そして。
四十九日が終わって遺骨を家の墓に入れた時に荷風は僧侶に彼女が話した仏壇の香炉箱の小さな足跡のことを話した。
「それを見たとか」
「ああ、それはです」
すぐにだ、僧侶は荷風に答えた。
「座敷童ですね」
「座敷童ですか」
「座敷童のことはご存知ですね」
「家にいて家に福を招いてくれて」
「そして子供にしか見えない」
「その妖怪ですね」
「その座敷童は悪戯もしまして」
それでというのだ。
「家の中の食器を本来ある場所から移したり音を立てたり」
「そうしたことをですか」
「悪戯としてしまして」
それでというのだ。
「家族の誰かがお亡くなりになる前に」
「仏壇の香炉箱にですか」
「小さな足跡を残します」
「そうでしたか」
「それで、ですね」
「ひい祖母ちゃんはですね」
「そうかと。そして以前」
「はい、ひい祖母ちゃんが言うにはです」
荷風は彼女が言ったことを僧侶にそのまま話した。
「ひい祖父ちゃんが死ぬ時にも」
「左様ですね、それはです」
「座敷童が知らせてくれるんですか」
「家族の誰かが亡くなることを」
「そうでしたか」
「そうです、ただです」
ここで僧侶はこうも言った。
「座敷童がいるとわかる様なことは」
「あったか」
「どうでしょうか」
「そういえば子供の頃家に小さな子がいたのが見えたり」
荷風はそういえばとなって僧侶に話した。
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