第二章
[8]前話
「僕は勝とうと思って打ってないです」
「えっ、そうなのか!?」
「麻雀好きでして」
それでというのだ。
「楽しもうって」
「そう思って打ってるのか」
「そうなんです、打っているだけで楽しくて」
「勝とうと思っていないのか」
「そうなんです」
「そうだったんだな、勝つ気ないんだな」
「別に」
こう藤田に答えた。
「ですから接待の時も」
「楽しんでか」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「打っています」
「だから適度に勝って負けてるんだな」
「言われた通りに」
「そうか、勝とうって思っていないか」
藤田は彼の話を聞いて唸った。
「そうか」
「はい、駄目ですか?」
「そんな打ち方もあるだろ」
藤田は勝ちたくて打っている、それでだったが別に火野元おの打ち方を否定しようと思わず彼に返した。
「だったらな」
「このままですか」
「仕事にもなってるしな」
接待の方も出来ているからだというのだ。
「それでいいだろ」
「それじゃあ」
「ああ、しかし勝とうと思わないとか」
藤田はそれを無欲と考えた、そのうえで言った。
「勝てるんだな」
「そうなりますか?」
「多分な、心から楽しんでいればそれが一番強いのかもな」
こうも考えた、そうしてだった。
火野元を接待麻雀に連れて行き彼とも打った、するとだった。
彼の打つ手は変わらなかった、接待の時は適度で。
勝負の時は桁外れに強くプロ顔負けだった、藤田はその彼を見て他の部下達に言った。
「俺もわかった、無欲で楽しむとな」
「それが一番強いんですね」
「そうですね」
「麻雀でもな、そういえば元阪急の足立さんもそうだった」
彼は阪神ファンであるがこのピッチャーを思い出した。
「あの人競馬好きで強かったけれどな」
「勝とうと思わなかった」
「そうだったんですね」
「それが強かった、下手に勝とうと思うと欲を出してな」
そうしてというのだ。
「無理をする、無理をしたら負ける」
「けれど欲を出さないと勝てる」
「無理をしないから」
「冷静に見られてな、だからあいつも強いんだ」
火野元、彼もというのだ。
「いつも冷静で無理をしないからな」
「ただ楽しんでいるだけで」
「それで、ですね」
「強いんだ、それが本物の強さで本物の勝負師なんだろうな」
火野元のことをこう言うのだった。
そして彼の麻雀をそれから見たが強さはそのままだった、楽しんでいて欲も無理もなく打っているので。
勝つつもりがないから 完
2021・12・21
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