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勝つつもりがないから
第一章

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                勝つつもりがないから
 藤田洋樹はある企業で営業課長を務めている、趣味は麻雀である。それで接待にも使っているのだが。
「今時お仕事で麻雀ってないですよ」
「接待麻雀なんてまだあったんですか」
「それがあるんだよ」
 藤田は部下達に言った、痩せていて鋭い感じの細い目で黒髪を短く刈っている。顔も痩せた感じで背は一七二程だ。妻とは見合いで娘が一人いる。
「だから君達も知っていて欲しかったんだがな」
「僕達ギャンブルしないですか」
「麻雀も競馬も」
「あと競輪とかもしないです」
「パチンコもパチスロも」
「俺達の若い頃は結構やってる奴いたんだけれどな」
 藤田は自分の大学生時代の頃を思い出して言った。
「世の中変わったな」
「若い人でする人いないですね」
「僕達もそうですね」
「いてもうちの会社にはいないですね」
「どうも」
「そうだよな、ギャンブル無理強いする考えはないしな」 
 金を使うからだ、藤田は誰にも金を使う趣味を強制する考えはなかった。
「仕方ないな、誰が知ってる新入り来たらな」
「それで、ですか」
「その新入り君にやってもらいますか」
「そうしますか」
「ああ、そうするか」
 こう言って彼は接待麻雀の時は彼だけか他の部署から助っ人を送ってもらっていた。だがそんな中で。
 営業課に火野元勤という新入社員が来た。一七五程の背ですらりとしていて癖のある短い黒髪で中性的な顔の青年だ。彼は自己紹介の時に趣味は麻雀だと言った。
 彼のその趣味を聞いてだった、藤田は彼に親しく声をかけた。
「君麻雀好きか」
「はい、好きでして」
 火野元は藤田に穏やかな笑顔で答えた。
「高校の時からしています」
「高校の時からか」
「そうなんです」
「そうか、じゃあ接待やら何やらで打ってもらうがいいか」
「僕でよかったら」
「遂に待っていた人材が来たな」
 麻雀が出来る部下がとだ、藤田は笑顔で言った。
「そっちでどんどん活躍してもらうな」
「僕でよかったそうさせて下さい」
 火野元の笑顔は穏やかなままだった、そうしてだった。
 藤田は彼を接待麻雀に連れて行くと接待のそれらしく程よく負ける、そして本気で打つとこれがだった。
 異常に強かった、まさに敵なしだった。それで藤田は彼に驚いて言った。
「おい、君麻雀高校生からだよな」
「やってます」
「まだ十年だろ、俺二十年だぞ」
 年季が違うというのだ。
「それで何でそんなに強いんだ」
「強いですか」
「滅茶苦茶強いだろ、どうしてそんなに勝てるんだ」
「勝つって言われましても」
 火野元は藤田にそう言われて意外という顔で返した。
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