第二章
[8]前話
「探すの手伝いますよ、どの店ですか?」
「テリルってお店だけれど」
「テリル?普通のバーですよ」
「普通の?」
「はい、別に危ない店じゃないです」
先生にこのことを断った。
「従妹の人そこで働いてるんですか」
「変なお店だったら連れ戻そうと思って来たけれど」
「別に何もないですよ。案内しますよ」
先生を実際にその店に案内した、新宿じゃもう店じまいの時間で丁度先生にそっくりだけれど三歳程若いバーテンダーの恰好の人が出て来た、それで先生と二人で話をして。
お互いに納得したらしくて笑顔で話は終わった、俺はこれで終わりだと思って今日は一緒に寝る女は今付き合ってる誰かの家にお邪魔してと思っていたが。
ここで先生は。
従妹の人と別れてしかも周りにたまたま誰もいないその一瞬を狙ってだった。
俺の右の頬にキスをしてきた、それでくすりと笑って言ってきた。
「お礼よ。あと高校の時から谷山君いいと思ってたから」
「それでなんですか」
「キスしたけど駄目かしら」
「いいんですか?先生ですよね」
俺は先生に軽く笑って返した。
「ホストにこんなことして」
「誰にも内緒よ。今周りに誰もいないし」
「だからしたんですか」
「お礼にね。じゃあまた縁があったらね」
「縁があったらですか」
「会いましょう。ただ私もう少ししたら結婚するから」
それでとだ、先生は俺に笑ったままこうも言った。
「これまでね」
「そうですか」
「これが最後でこれまでよ。じゃあね」
「ええ、また会いましょう」
俺は先生と軽く笑ったまま別れた、けれど。
キスをされた右の頬を摩ってお礼それもかつて授業を教えてもらっていた先生からのものということから甘い気分になった、それと共に。
最後というところに毒も感じた、誰にも内緒というところにも。妙に毒を感じた。
甘い毒、それが実際にあることがわかった、俺はないだろと思っていたことが本当にあってまた笑った。そのうえで。
今付き合ってる女の子の中で先生に一番近いかなという娘の家に行った、高校の時に見た先生に。そうしてその人と寝たけれど今度は甘い毒は感じなかった。それであれは特別なものなのだとわかった。それから俺は甘い毒には出会っていない。そうしたキスはこの時だけだった。
POISON LIPS 完
2021・3・31
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